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第9話

「むっ……このにおいは……」
談笑したり、黙々と歩きながら進み、日の傾き具合からみて、大体3時……昼を2~3時間ほど過ぎたころだろう
か。

俺の鼻に卵の腐ったようなにおいがするのに気付く……
要するに温泉とかでよくかぐようなにおいがしてくるのを感じた。
「ぼ、僕じゃないよ」
何かジャンはいっているが、このにおいは……なんだろう?温泉?
というかうたがってねーよ!

「このあたりはダングルフの枯れ谷の近くなのでにおいはそのためでしょう」
とまあくだらないやり取りをしている間にルース君が解説してくれた。
火山ということならこの硫黄のにおいは納得である。

「へぇ~、そうなんだ。となると温泉とかあるのかな」
このにおいで火山とくれば、温泉!と答えるのが日本人というもの。あるかどうかはちょっと気になってしまう
「温泉ですか?」

はて?という風にルース君は首をかしげる。
「うん、こういう火山に近いところではさ。地下水が温められて、地表に湧き出たりするんだ。でその温かい
お湯につかるのさ」
すごい気持ちいいぞと付け加えて説明する。

「なるほど、バストゥークにも工房の廃熱を利用した大浴場がありますが、そんな感じですかね?」
「そそ、そんな感じそんな感じ、だけど温泉はちょいと別格だな、特にこういう場所だと露天風呂になるから
景色も楽しめてすごいよさそうだ、人も入ってこなそうだしね、一人満喫ってな」
バストゥークには工房の廃熱を利用した大浴場があり、にぎわっている。俺とおやっさんも仕事を終えると
一日の汗を流しにそこへよることが多い。寄らない日は水を浴びて終了だけどね。

「ショウさん、そんな外にあるお風呂なんか入って誰かに見られたりしないの?」
ルティがおずおずと聞いてくる。
「うーむ、覗きくらいはいるかもしれないけど……周り見ても人っ子一人いないしな。大丈夫なんじゃないか
な」
「そ、そうなんだ」
人がいないから家に鍵をかけてなくても泥棒は入らない理論だなこりゃ。
大浴場もさすがに男女別れてるし。

ちょいとからかいたい気持ちが俺にむくむくと湧き上がってきた。
「うーん、でもこういう場所だとやっぱり混浴になるのかな、秘境の温泉ってか整備されてないところは」
「混浴?」
「みんな一緒に入るってこと、男の人も女の人もね」

「・・・!」
「!あらあら・・」
ルティとラピピさんは顔を赤くしてうつむいてしまった。
うっへっへ、なんか俺おっさんみたいなノリだな……

「まー、ルティは見ても……」
俺がちらりと見て、手を外人がよくやるようなお手上げのポーズをする。
「もう!」
ルティがぷんすかという感じにふくれっ面しながら俺に言う。

「ははは、まあちょっとした冗談、まあ混浴というのがあるというのは事実だけどさ」
「やっぱりだめじゃない!」
ジャンとルース君はくすくすと笑いながら見守っている。
ちょっとは打ち解けてきたかな、と思う今日この頃。

そしてそんなやりとりのあと、しばらく歩き続け、俺たちは北グスタベルグにたどり着いた。
とはいえ、これは便宜上北と南に分かれているだけで、俺たちの行程には代わり映えのない
土と岩の景色が続く。

歩き続けてどれくらい経っただろう。太陽はすでに傾き始め、夕方への準備を着々と進めている。
ここまでの道中俺たちは今までは敵らしい敵に遭遇してこなかったのだが
(子どもほどのサイズのハチや、腰ほどの大きさのミミズ
わしよりも一回りも二回りも大きな鳥、トカゲというには小さな恐竜といったほどのサイズのトカゲなどと
遭遇したが、彼らは自分から襲ってくるということはないため、特に問題はない)

だが今俺たちの目の前には、明確な敵意を持って襲ってくる恐れのある敵……獣人がいる。
現在の状況としては、先頭を行くルース君の制止のおかげで、あちらはこちらに気づいていないという
有利な状況である。

敵は甲羅に包まれた亀がよろいを背負って武器を持って歩いているような容姿の獣人、クゥダフである。
彼らは焚き火を囲んで3体いるようだ。
亀なのに焚き火にあたるとかなにそれ!とかいいたいけど、状況はそんな冗談を許すわけもない。

「ここからは小声で話すことにしましょう、彼らは目が悪い代わりに、耳がいいんです。ですからあまり大きな
音を立てないよう気をつけてください」
なるほど、音を立てないようにか……気をつけないとな

「さて、僕らは戦うか、迂回して少し遠回りをするかという選択肢があるわけですが」
ふむふむ
「戦う場合ですが、彼らは見るからして若いクゥダフで強さはそれほどでもないと思います。とはいえ彼らは
知能のある獣人なので油断は絶対に禁物です」

まあ犬だって人間並みの知能を持って襲って来たら勝てるかわからないしな。武器を持ってるならなおさらだ。
「そして迂回する場合ですが、少し遠回りすることになります。またしばらくは後方に注意しながら進ま
なければなりません」

この選択肢だったらどう動くか……皆の意見はまだ聞いていないが
俺は腰に下げているブロンズソードをちらっとみてささっていることを確認し、戦闘を補助する楽器
もいつでも行動に移せるように準備をする。
緊張感が俺たちを包み、奇妙な静寂が俺たちの間に広がる。

そして周りの皆も俺の行動より早く、持ち物を確認し。いつでも行動できるようにしている。
クゥダフたちに気づく様子はない。このままなら奇襲できそうだ。
そして俺たちは無言で互いにうなづきあい、行動に移った。

「まあ普通逃げるわな」
「何ひとりごと言ってるのさ?」
「いや、なんでもない」
結局俺たちご一行は、クゥダフがいるポイントを避けて、遠回りをしているところである。
あの場は満場一致で「戦闘を避ける」と決まった。

俺はわざわざ危ないことはしたくないし、ルース君たちも自分から仕掛けたりする必要はないという意見
シーフであるジャンは、持ち物をくすねるくらいならいいんじゃないかな……?とかいってたけど無視無視!
戦わないに越したことはないしな!

皆装備を確認してたのは、もうここに戻ることはできないから、持ち物を確認したというわけ。
今俺たちはクゥダフたちがたむろをしていた場所からしばらく離れて
そろそろ危険はなくなってきただろうとルース君が判断したあたりである。

岩と土の代わり映えのない景色はまだまだ続いている、日は落ちかけており、もうじき夜になろうかというころ
である。夕日は荒野を照らし、なんともハードボイルドな感じだなあと一人思ったりする。
荒れた土地であるため、国周辺から離れたこのあたりでは畑もなく、それに付随した家もない。

バストゥークから離れて、さらにこの痩せた土地を耕そうという猛者はいないのだろう。
ところどころ生命力の強い木が生えている程度のものだ。

おやっさんも畑持ってるって行ってたけど、比較的国から近くにあるっていってたしな。

「ショウ何難しい顔してるのさ」
「いや、なんでもないよ」
ちょっと考え込むとすぐ顔に出る癖は早く直さないと駄目だな。

本格的に暗くなり始め、頼りになるのは月明かりとラピピさんがたまに使うファイアの魔法の明かりだけ
ちなみにこの世界の月は曜日によって色が違う。
はじめてみたときは驚いたが、今はもう慣れてしまった。

今日の月は赤色で今日は火曜日であるということがわかる。
赤って言うのはどうも禍々しい感じを受けるけど、同時に神秘的な感じもする。
日本に居たころは、月を眺めるなんてことはまったくしなかったけど、この世界に来てからは眺める時間が
増えたなあ。

そんなことを考えながら歩いているうちに、遠めにうっすらと明かりが見えることに気づいた。
当然俺が気づいているくらいだから他の人も気づいているというわけで

「アウトポストが見えてきましたわね」
「うんうん、やっと休めるね」
とルティとラピピさんが言葉を交わしている。

「皆さん。今回はそこのアウトポストで夜営することにしますね」
ルース君の一言で俺らの方向性は決まった。
アウトポストというのは、要するに各国の兵士の詰め所である。

あるのは小さな衛兵用の建物だけであり、また兵士でない俺らは中に入ってとめてもらうことはできないが
他の何もない場所でとまるよりはよほど安全であることは確かだ。

詰め所の見張りの衛兵にあいさつをして、とりあえず周りを使うことを伝えておく。
冒険者がここ周辺を利用することはよくあることみたいで、特に問題もなかった。
まあそういうわけで俺たちは建物の裏手のある場所当たりにキャンプを設営することとなったわけである。

雨もほとんど降らないこのグスタベルグでは、この季節なら特にテントを張る必要もなく、毛布一枚と
地面から熱を奪われるのを防ぐためのものを一枚下に敷いておくだけで寝れそうだ。
そして俺たちはいろいろな準備を終えてさあ夕飯という流れになった。

疲れがたまり、腹も減った……とはいえたいした物はないんだけどね。
今から火をおこすのもきつい…グスタベルグには木が少なく、枯れ木を集めるのもひと手間かかるからな。
味気のない夕食になりそうだ。とまあこんなことを考えていたそのとき

「ふふふ、こうなるだろうと思って用意してたよ」
とジャンがなにやら言ったかと思うと、ごそごそと出発前には何も入っていなかった袋から
何かを地面にばら撒いた。これは……枯れ木だな。
「やっぱり火があるとないとじゃ全然違うからね。歩きながら集めておいたのさ」

アウトポスト周辺なら気にすることもないしね、と笑いながらつぶやく。
「おぉ、ジャンもたまには役に立つことをするんだな」
「たまにはって何さ、たまにはって」
「まあ気にするな、素直に感心してるんだ」
「むう……」

しかし、これがトレジャーハンターの能力です!なんてことないだろうな……?

「ともかくジャンさんのおかげで火をおこすこともできるようになったみたいですし、どなたか火のクリスタル
持ってます?丁度切らしてまして……」
とルース君が皆に尋ねた。

火のクリスタル?それなら確かいくつか持ってたはず……
ごそごそと小物入れを探り、その中にはさまざまな種類のクリスタルが分けて入れてある。
その中からいくつか取り出し、ルース君に聞く。

「持ってるけど、何かに使うのか?」
「ええ、たき火の中にいくつか置くと火がだいぶ長いこと持つんです」
へえ、それは知らなかった。クリスタルには未知のエネルギーでも詰まっているんだろうか。
これ日本に持って帰ったら大発見になりそうだな、未知のエネルギー発見!ってな具合に
……その前に、帰れんのかね、ホント。

「へえ、いくつ必要なんだ?」
「そうですね、3つ4つあれば足りるはずです」
「ふむふむ……はい、これで4つあるかな」
とりあえず4つほどルース君に渡す。炎のクリスタルはほのかに温かい。

ルース君はそれを木が並んでいる中央に配置する。
「ラピピ、頼む」
するとラピピさんはこくりとうなずくと
「炎の精霊よ……ファイア!」
ラピピさんは簡単な詠唱をして、枯れ木に向かってファイアの魔法を放つ。

魔法というのは詠唱が必要でこういう弱い炎の場合あまり長い詠唱を必要としないらしい。
仕組みは分からないが、道中何回か見てきたし、あまり感動とかはしない。
何はともあれついに火がついた。これで暖かい夜をすごすことができそうだ。
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第8話

「さて、では揃ったことだし向かいますか」
現在はだいたい昼を過ぎたあたり、準備の段階で適当に急いでその辺にあるものを口に入れたため、特別腹は
減っていない。

「えーと滝まではどれくらいかかる予定?」
「ん~、そうですね……時間にしては今から行ったら、明日の夜になるくらいですね、
夜営地には半日かかるかかから無いかくらいだと思います。
急いでいけばもう少し早くつきますけど、夜進むのはなるべく避けたいので
途中で夜営することになると思います」

ふむ、大統領補佐のルシウスさんから受けたミッションの期限はまだまだ余裕あるし
明日は普通の休日だけど、明後日は疲れて鉱山仕事なんか出来ないかもなぁ……
まあサボっても特に何もないというすごい職場だけど……おやっさんは俺が来る前に一人でもやってたしね。

帰りの時間を考慮に入れてないのは、皆デジョンの呪符を持っているからである。
デジョンというのは自分の決めた拠点に戻ることのできる魔法で、呪符というのはその魔法が封じられている
羊皮紙である。使い捨てだけどすごい便利なもので一度使うともう普通に帰るのはいや!と言いたくなるほど
基本的に冒険者は常備しているといってもいい。

「ありがと、質問はもうないよ」
急ぎではないが、のんびりしすぎると日が暮れてしまうからな。

「よし、では出発しますか」
このパーティーではルース君がリーダーを務めるようだ。俺よりベテランだし、ジャンは向いてなさそう
だから、当然かな。もちろん異論はない。ルース君は雰囲気がリーダーぽいからな……

「お~!」
ジャンが気の抜けるような掛け声をかける。
まあそんな大層な依頼でもないし、こんな感じで行くとしますか!

さて、滝まではどう行くんだったっけ……。前行ったときは適当に進んでいったからなぁ。あの時は食料も
野営の準備もろくにしないで勢いだけで進んでたし……よく生きてたな俺。
しかし今回の俺はただついていくだけで問題無いというところが楽なところである。

今は先頭がルース君、次にラピピさんとルティが並んで、最後尾に俺とジャンという隊列で進んでいる。
……体の小さなラピピさんが俺らと同じくらいのスピードで無理せず進んでいるのは驚いた。

今のところは街道も整備されて快適な旅である。現在の場所南グスタベルグは荒れた土地で、雨も少なく
岩と土の支配する土地であるが、国に近いこの場所ではそんなところでも育つことのできるポポトイモや
たまごナスが植えられた畑がポツポツとある。

おやっさんの畑はどの辺にあるんだろうなぁとか考えたりおしゃべりも交えながら俺達は進んでいく。
俺とジャンが適当な冗談を交わしたり、ラピピさんが先頭のルース君にちょっかいを出したり、それにルティ
が便乗したり、更に俺達が便乗したり(悪ノリ)とまあこんな道中である。

襲ってくるモンスターとかもおらず、平和と言う一言に尽きる。40~50cmはあるハチとか、俺の腰くらいある
ミミズとか、わけわからない動く(発芽した)種などなど、いくらでも見かけたりはするけど、襲ってきたり
はしないし、俺はいちいち驚いたりはしない。
さすがに6ヶ月もいりゃこうなるのさ!
なんか順応し過ぎて怖いレベル、言葉が通じるのが大きいんだろうなぁ。

まだまだ先は長い、どうせだし歩いている皆の様子を見てみる。ルース君は度々地図を見ながら道を確認
している、もはや俺の中でのリーダー像が確定するほどの働きっぷり、そして、ラピピさんと確認しあったり
している。ラピピさんは参謀的な感じかしら。ルティは2人をニヤニヤしながら見ている。

2人は怪しいって言ってたし、それをウォッチングするのに忙しいのだろう。
ジャンは度々新しく買った短剣を腰から抜き眺め、戻し、眺めを繰り返している。
まあ何もしてないようなもんだし、ちょいと思ったことでも聞いてみよう。

「そういやジャンよ」
短剣を眺めていたジャンが腰に戻し、反応する。
「ん、何だい?」
「お前って地図とか持ってるの?」

ルース君の地図を見る姿を見て、ちょっと気になったことである。
こいつのことだから持ってないだろうな……俺も持ってないし。
「ん、もちろん持ってるけど?とはいえ主要な3国周辺の地図くらいしかないんだけどね」
何だ持ってるのか、ジャンのことだから星を見てそれを頼りに移動してそうなのに……

「なんだ、お前のことだから持ってないと思ったよ」
「いや、冒険者の必需品といってもいいくらいだと思うけど……ショウは持ってないのかい?」
「ぐっ……持ってないな」
逆に俺が無知を晒すことになってしまった。知らない事自体は恥ずかしいことじゃないけど
必需品とか言ってるしなあ。

「はは、ショウってたまに抜けてるとこあるよね。当たり前のこと知らなかったり、準備とかきっちりするのに
地図持ってなかったり」
「お前に言われたくはないわいっ!」
食料なしとかさすがの俺でもそれはないぞ!
地図なんかなくても国から出ないし、なくてもなんとかなるさ!多分。

「お二人は仲がよろしいんですのね」
とまあこんなやりとりをジャントしていたところ。
前を歩いていたラピピさんがニコッとしながら俺たちに話しかけてきた。

こうして見るとラピピさんは穏やかそうな人だなあという印象を受けるな。なんか毒吐いてた気もするけど……
「そうかな?仲がいいというよりは……そうだなー、ダメだとわかっててもお金を貸してしまう借主と貸主
の関係みたいな感じ?うまく例えられないな」

「いや、そこは仲良いでいいんじゃないかな?」
「ハハハ」
「もう!」
ジャンがぷすっとむくれる。つか俺より大きいイケメンがぷすっとしててもな……

「ふふ、十分仲いいではありませんか。お二人の付き合いは長いんですの?」
そう聞かれるとあまり長い付き合いでもないな。身も蓋もないこと
をいえばそもそもこの世界自体の付き合いが短いしな。しかもこいつはふらっとどこかへ行って
いつの間にか居るとかそんな感じのやつだったからなぁ。

「うーん……付き合い自体は長くないな、出会って半年にならないくらいだ」
「そうだね、たしか僕がショウと会ったのはね。確か何ヶ月か前えの話しさ、その時の話聞くかい?」

「ぜひ聞いてみたいですわ」
「私も聞きたいな」
「僕も興味ありますね」

おっと、ルース君にルティも食いついてきた。こいつとあったときはどうだったかなぁ……。
とまあ俺が考え込んでいるとジャンが説明をしだした。
「よろしい、では失礼して。……僕とショウが会ったのは確か数カ月前のコウモリのねぐら、あの君たちに
食事とお酒をおごってもらったところさ。その日僕はパルブロ鉱山というクゥダフたちのねぐらになっている
鉱山を散策した戦利品を持っていって、僕が座ったテーブルに広げた。
すると客は僕の持つ品物の珍しさにテーブルの周りに集まり始めちゃってね。參ったよ……
で、みんな離れてくれないから僕は言ったんだ。

『珍しいのは分かったから、なにか食べ物をくれないか?何でもいい』
ってね。そうしたところ、客の一人が『このめずらしいものを見せてくれたお客
さんに何か食べ物をやってくれ、もちろんお代は俺が出す。そのかわりそれについて色々聞かせてくれないか?』
といった客がいてね。それがショウだったというわけさ」

ジャンは語りきったというしたり顔を浮かべている。
「なかなかロマンのある出会いですわね」
「ジャンさんってちょっぴりダメな人かなと思ってたけど、そんなことないんだね」
「珍しい品物……興味ありますね」
皆がそれぞれに感想を述べている、おおむねジャンはトレジャーハンターとしてなかなかのものなんだろうな
とか思ってることだろう。しかし

……ん?なんかおかしいぞ。おかしいというか事実と違うというか。
ジャンがコウモリのねぐらに来たところまでは事実、しかしジャンが持ってきたのはよくわからない人形の手足
で、客は一瞬だけ集まったが、さっと同じように一瞬で去っていってしまった。どう見てもガラクタだったしな。

その時点で色々とおかしいけど、その後のジャンはというと、誰も居なくなったテーブルの上で突っ伏して
動かなくなっていた。俺はなんとなく気の毒に思って
『いやー、そのなんだ?人形も悪くないよ。ここのやつらはひと目で分かるすごいものを好むみたいだから』

と声をかけたところ、動かないから。
『おい、大丈夫か?』
と体を揺すってみたところ

『お腹すいた……何か食べ物……』
とか何とかもぞもぞ喋っていたので
『頼めないなら俺が代わりに頼んでやろうか?』
という小さな親切心をだしたのだけれど

『実はもう手持ちがないんだ……これあげるから食べ物もらえないかい?』
『いや、いらないけど……』
正直全くいらない。よくわからない人形の手足?だいたい手足だけって……

で、正直にそう返したところ、そいつは見るからに落ち込んで、全く動かなくなってしまった。
だから俺は仕方なく
「ああもう!しょうがないなその人形はいらないけど飯くらいなら食わせてやるよ!」
そういった瞬間、ジャンの顔はぱっと輝いて

「ほんとかい!」
もしかして演技だったのかと思えるほどの変わりぶりに戸惑う。
まあいいか。

「……言ってしまったものはしょうがないからな、いいよ大して高いメニューがあるわけじゃなし、好きなもの
頼んでくれ」
「わあ、ありがとう……!」
「うおっ……抱きつくなっ!男に抱きつかれてもうれしくないわっ!」
「そう?じゃあこの人形でも……」
「それはいらないです」

「ハハハ」
ハハハじゃないよまったく……

あいつの性質の片鱗はすでに会ったときから見えてたんだな……
とまあ思い出してみたところ、ジャンの話はもはやファンタジーだなこりゃ。
正直なところ訂正するのもめんどくさい……

俺はジャンを肘でつついて
「おい、なにへんな物語つくってんだよ」
するとジャンは小声で俺に耳打ちする。

「ふふ、軽い冗談だよ」
「まあいいけどさ、あんま期待値上げすぎんなよ?がっかりする姿が目に浮かぶからな……」
「大丈夫大丈夫、冒険者なんて今日つき会う人と明日付き合う人が違うものだしね。
ダメダメジャンさんのまま別れるよりいいかなーと思ってね」

一理あるといえばあるな、冒険者というものは一応評判とかを気にするものだからな。いい評判が立てば
仕事だって舞い込んで来ることがあるらしいし。別に俺は冒険者としての評判とかは気にしないしね。
「まったく、俺は別に構わないけど、せいぜいボロがでないよう気をつけろよ?……まったく、後で何かおご
ってくれよ」

「ふふ、まかせといてよ」
「期待せずに待ってるわ」
まあこいつのことだしな。

「まったく、そこは大いに期待して待つところだよ?」
「へいへい」
期待して待ってますともさ

「そこの二人ー遅れてるよーこのままじゃ明日になっちゃうよ」
おっと、気づいたら集団から少し遅れてしまったらしい。
俺たちは顔を見合わせ、かけていくのであった。

第7話

「話はついたみたいね、それではよろしく頼むわ」
イザベラさんからクエストを受けた俺達は
「さて、色々準備とかあるでしょうし、準備ができ次第、鉱山区側の南グスタベルグ入口の門に集合と
しましょうか。往復で一日はかかる距離はあるので、それなりの準備はお願いします」

というルース君の一言で別行動中なのである。現在俺は一人
ジャンのやつはなにか取りに行くものがあるといって俺のレンタルハウスへ装備やその他もろもろ
をとりに一緒に戻ったあと、別行動をしている。

俺の準備といってもあまり大した事はない。普段使い用のブロンズナイフ、ナイフだと戦闘中相手に近づくのが
ちょっと怖いので適当に合成したブロンズソード、防具としては防具屋に安く売っていたレザーアーマー一式
それと吟遊詩人に必須の楽器、フルートにメープルハープである。それにアイアンパンに干し肉、ポポトイモ
等の食料に水ををコウモリのねぐらで買ってさらに毛布や雨具等を持ち準備完了というわけである。

 まあこのように準備も少なく(日本のようにサイフひとつで出かけられることを考えると多すぎるくらいだけ
ど)自分のレンタルハウスから近いところにある集合場所ということで
俺は一番乗りというわけ。

ここ南門は一歩出ると南グスタベルグに通じている。まさに街と荒野との境目である。石造りの街の風景が
その一歩を踏み出すと岩と砂の光景になるというのだから。
しばらくぼーっと立ちながら時間を潰していると、どうやら2人目が来たご様子。

彼女は魔法使いが着るようなローブを着て、頭には髪飾り、そして腰にはなんか叩かれたらやばそうなハンマー
をぶら下げている。
「おー、ルティちゃんが2番か」
「る、ルティちゃん……え、えーと、ちゃんはやめてもらってもいいかな……なんかムズムズする」
ちゃん付けはまずかったかしら。
「そ、そう?じゃあなんて呼べばいいかな」
「普通に呼び捨てでいいかと」
うーむ、女性経験の無さがここに現れるわけか、自分で言ってて悲しい。
「じゃあ、ルティ……でいいかな」
「はい!」

「誰かもういるとは思わなかった。あたし結構早く来たのに」
ルティちゃんは少し不満気に言う。
「まあレンタルハウスここから近いからな、それに準備する店も近いし……ところでそのハンマーは?」
ジモッティの利というわけであるな。

だけどそのことよりも今はそのごついハンマーが気になっている。
「これのこと?これはバストゥークの10人隊長の武器として正式採用されてるハンマーなんだ、だから
いい品だと思うよ」
「た、たしかにすごそうだな」

うーん俺は、白魔道士というのはパーティーの回復や治療のエキスパートで
俺は誠に勝手ながら白衣の天使的なのを想像していた。よって現実との剥離に悩んでいると
「む、もしかしてそんなの扱えるのかと思ってる?わたしはどっちかというと魔法よりこっちのほうが
向いてるくらいだし、こう見えても得意なんだよ」

そっちではないんだけど……いや、特に疑ってはいない。この世界の人は体が小さくても力あったりするしね。
ただ脳内のイメージとの相違について悩んでいただけなんだ。とはいえないので
「いや、特に疑ってはないよ、頼りにしてる」
という無難な返し方しか出来ないのであった。

俺が思うに、この世界で暮らしている人は、俺より若くてもすごくしっかりしてると思う。モンスターが
その辺を闊歩して、国から一歩出れば安全は保証されない。その上敵対している獣人もいる。
今は小康状態らしいけどね。だから日本でのほほん学生やってた俺にとっちゃ会う人会う人若いのに
すごいなあとか思うよホント(俺も十分若いというのにね)
だから年上面出来ない、できにくい!

何でこんなことを考えているのかというと
「そういえば年上に見えるけど、ショウさんっていくつなの?」
「えーと、今は20、いや21歳になったところかな、ジャンも同じ位って聞いた」
と年齢の話題になったからである。

「へえ、私たちより結構上なんだね」
「そうなのか?」
「うん、私が15で兄さんは17だし、ラピピ姉さんも兄さんと同じだよ」
「へえ、結構俺より下なのね……いやあ若いのにしっかりしてるな」
「ショウさんも十分若いじゃない……」

てかまあガルカという俺より2倍は長く生きる種族が存在するという時点で年齢なんか飾りなのかもなとも思う。
おやっさんはいくつなんだろなぁ。

「そういえば普通に酒場に居たような気がするけど、何歳からとか無いの?」
「え?どういうこと」
「いやあ、普通お酒って何歳以上は飲んじゃダメとか無いのか?」

「えー、それは聞いたことないな。ショウさんの故郷だと決まってるの?」
「まあな、俺の故郷では20歳になってからって決まってたよ。守ってない奴も居たけどね」
「へぇーそうなんだ、変わった決まりだね」

いや、俺にとっては決まってないほうが違和感あるんだが、殆どの国で決まってたと思うけどなぁ。
まあこの世界の常識とは違うのは当たり前か。

「まあそれはおいといて、ラピピ姉さんって言ったけど何でまた姉さんなんだ?実の姉妹というわけでは
無さそうだし……」
「うーん、詳しく話すと長くなるけど、あたしと兄さんは小さい頃両親の都合でウィンダスに行ってたんだ」
ウィンダスというのは、正確にはウィンダス連邦という。
それなりに遠いらしいので俺はまだ行ったことはない。

「へぇ~、ウィンダスかまだ行ったことないなぁ、タルタルとミスラがたくさんいる国だっけ?」
「うん、そうだね、ほとんど、いや全くといっていいほどいなかったかなー。だから最初は友達とかも全然
できなくてね」
「へえ」

俺がこの世界にきて学んだことを頭から引っ張りだす。
この世界には種族というか、人間でいう人種の違い(まあかなり違うけど)があって

まずは俺みたいな日本人ってか地球人っぽい見た目ののヒューム。
でおやっさんみたいな、でかい、ごついプラス尻尾のガルカ。
そしてジャンみたいな、ヒュームに似てるが、比較的背が大きく、尖った耳をしているエルヴァーン
まあ物語で言うエルフみたいな感じ。
次にラピピさんみたいな、背は子ども程度で丸っこいはなに尖った耳のタルタル。
で、最後にミスラ、知り合いにはいないけど見たことはある。えーと獣のような耳と鼻に尻尾
なんというかネコのような印象を受けた覚えがある。
そういえばガルカは男性しか見たことないな。

「それで色々あって、あっちで最初に仲良くなって一緒にいるようになって、それから姉さんと
呼ぶことになったんだ」
「そうなんだ、長い付き合いなんだな」
「うん、冒険者になったら一緒に仕事しようねってその時3人で決めて、それで3人でやってるんだ。
あ、兄さんとラピピ姉さんが来たみたいだよ」

見ると遠くからルース君とラピピさんがこちらに向かって手を振りながら歩いてきている。
「……あとここだけの話だけど、兄さんとラピピ姉さんはちょっと怪しいと思ってるんだよね」
まだこちらに到達しないという距離で、ルティは俺にニヤリと笑って小声で言う。
怪しいってのは……ああ、そういうことか。異種族恋愛ってのもありなのかねー。
この世界にきて半年の俺はそのことが含む意味については分からない。だけど笑って教えてくれること
なら別にタブーというわけではないんだろうな。

「おまたせしました。ああ、ルティ早めに来てたんだね」
「ショウさんも来てるとなるとあとはジャンさんだけみたいですね」
とりあえずこれで4人揃って残るはジャンだけ。

「うっジャンのやつが遅くて申し訳ない……」
「いや、特に決めてなかったし気にしないでください」
笑いながらルース君は俺に言ってくれる。顔の爽やかオーラにさらさらヘアー
なんかイイ人オーラと爽やかオーラに包まれている。

「いやあありがたい、ったくジャンのやつ何やってるんだ」
とまあ4人揃ってからかれこれ数十分経っているのであるが(時計は門の横のゲートハウスという衛兵がいる
場所に置かれているのですぐ確認できる)


「ット噂をしていれば来たみたいだな」
遠くから小走りでこちらに向かってきているジャンが確認できる。
「いやーちょっと遅くなってごめん、準備があってね」

「特別すごく遅くなったわけじゃないからいいけど、何してたんだ?」
「えーっとね実はこれを買っていたんだ」
ジャンはじゃーんといいながら(ダジャレではない!)腰から一振りの短剣を取り出す。

「きれい……」
「まあきれいな短剣ですわね」
「おぉ~これはこれは……」

みな違う反応をする。その短剣は青みがかっていて、大きさは大体手の先から肘くらいあり
俺も普通に見とれてしまった。
「うん、この反応なら買ってよかったなぁ……実は綺麗なだけじゃないんだ、そうだなぁラピピさん持って
もらってもいいかな?」
「わたくしには少し大きいみたいですけど、はい」

ジャンがラピピさんにその短剣を手渡すが、タルタルサイズではないその短剣はラピピさんにとって
片手剣ほどのサイズになってしまう。何を意図しているかは分からないが、サイズは合っていないことは確か
だな。

「まあ……とても軽い」
そのタルタルのラピピさんにとっては大きな短剣であるが、ラピピさんは軽々とブンブン振り回している。
「そうなんだ、この短剣はとある蜂の針をつかって作られた品でね。なかなか貴重なものなんだ。
刃に鉄やブロンズを使ったりはしてないから、びっくりするほど軽いんだ」
数カ月前の俺だったら、蜂がそんな大きな針持ってるわけねーだろ!ってツッコんでたところだったけど
今ならまあいるんじゃないかなと思える。

「モンスターがその生きる年月を重ねることでそういう武器の素材になったり、様々な加工ができるものを
体に宿すことはよくあることですが、いい買い物しましたね」
ルースくんは冷静に品評をしている。どうやら悪い品ではないことは確かなようだ。

だが俺には別の要素の心配事というか気になることがある。それは
「その短剣が凄そうなのは分かったけどさ?お前金あったっけ??」
俺は当たり前の質問をする。だって昨日俺に飯をたかってきたしな、お金なんてないと思うだろ普通。

「えーとね、実は競売に出した品物が早速いくつか売れていたんだ。クゥダフの甲羅なんて何に使うかわからな
いものも売れてたし、ありがたいよ。それでいくつかまとまったお金が手に入ったからね、早速買っちゃった」
「そうだったのか、結構高かったんじゃないのか?」
意外とトレジャーハンターっぽいことやってるのねと妙に感心した。
「うん、僕の持ってるお金殆ど使っちゃったよ」

「そうか……それで俺達は今から依頼を受けたクエストを遂行しようとしてるわけだけど……お前身軽過
ぎないか?」
見る限り、ジャンの装備はいつものレザー装備にちょっとした小物入れといった程度で、とても1日かけて
クエストを進行するようには見えない。ちょっとコンビニ行ってくるわ!とでも言いそうな装備である。

「そうかな?」
「そうだよ!食料とか買ってないのか?」
「……あ、忘れてた」
やはりこうなるか……前から思うにこいつはちょっと抜けているところがあると思う。つかこの世界初心者の
俺のがしっかりしているという状況はおかしい……

「まあいい、そんな短剣買えるくらいだし、一日分の食料くらいは買えるくらいは残ってるだろ?」
「あはは……実はこれくらいしか残ってないや」
そういうとジャンはゴソゴソと小さな袋に手を突っ込み、一握りのギルを取り出した。

「えーと、これは24ギル…だな」
「うん……どうしよ」
どうしよ、じゃないよ!とツッコミたい俺だったが正直これ以上時間を伸ばすとクエストの進行に支障が出る
からな。

「……まったく、朝の時点でお前に手持ちがないことはわかってたし、一応お前の分くらいは用意してあるから
安心しろ」
「ショーウ!ありがと~!!」
「ぐおっやめろっ!抱きつくな~!」
同じくらいの年の男に抱きつかれても嬉しくもなんともない。

てか俺もダメ人間だと思ってるけど、こいつといるとまっとうな人間のように思えてならない。
どうしてこうなった……


第6話

「とりあえず、ジャンさんちょっといいですか?」
3人組のローブを着てフードを深くかぶっているタルタルがジャンに尋ねる。フードのおかげか性別が分から
ないな、声を聞いてもどちらとも聞こえるし。

「なんだい?」
「とりあえず自己紹介でもしませんか?わたくしたちはお互いのことよく知らないわけですし、その他のことは
そのあとで説明するのがよろしいかと……遠慮がないということくらいしかしらないですし」
なんかぼそっとつぶやかれた。まあそのとおりではあるんだけどさ
食える時に食うというのが信条であるので反省はしない。なかなか毒舌であるな。

「それもそうだね、それじゃあ僕から、言うのは2回目だけど、僕はジャン。サンドリア王国に所属する
冒険者でランクは1、ジョブはシーフをやっている。冒険者としては各地のお宝を探し歩くトレジャーハンター
といったところかな?」
ジャンのやつは肩書きだけ聞くとカッコいいんだけどなぁ、トレジャーハンターとか

まあお宝というよりガラクタ見ることのが多いけどね。そんなことより
「なあジャン、ランクって何?」
「そこにつっこまれるとは思わなかったよ……まあいいや、ランクっていうのはね、冒険者の所属している
国が冒険者に貢献度とかいろいろなものを考慮して与えられる地位のことなんだ。ランクは1から10まで
あって10に近いほどその地位が高くなるんだ」

「へぇー、ランクが上がるとなにか得があるのか?」
「そうだなぁ……お金がもらえるとか直接的な得はないと思うよ。ただランクが上がるってことはその国に
おける重要な人物になれるってことだから、上昇志向の強い冒険者はランクをすごい気にしてることが多い
かな」
手柄を立てて仕官するぜ!みたいな感じか
「なるほどな」

とすると今のところランク上げることを目指す必要はないらしい。偉くなりたいとかあまり思わないしね。
「とすると1のジャンは駄目駄目だってことじゃないか」
「ぐっ、そんな事言ったらショウだってそうじゃないか。僕には国での地位なんて関係ないのさ」
まあそういうの重視してたら家継いでるわな。

「えーとジャンさんにひとつ聞いてみたいんだけど、いいかな?」
ボーイッシュな女の子がジャンに尋ねる。
「何かな?」

「ジャンさんはトレジャーハンターらしいですけど、どんなお宝があるのかなぁって」
「うっ……い、今は競売所に出したばかりだから手元にはは何もないんだ。ハハ、残念……」
すごいうろたえてるな。ガラクタだろうし仕方ないといえば仕方ないが

「そうなんですかー……残念」
結構がっかりしてるな、まあ見てもがっかりするだろうけど……
「じゃあ気を取り直して、次はわたしが、わたしはルティ、バストゥークに所属してる冒険者でランクは3で
ジョブは白魔道士。ああ、それとそこにいるルースの妹やってます。冒険者としては色々なことやってるかな

へえ似てると思ったけど兄妹だったのか。

「それではついでに、僕はルース。同じバストゥーク所属の冒険者でランクは同じく3、そしてルティの兄です
それと、ジョブは戦士をやってます。冒険者としては、ルティと同じですね、様々なことをやってます」
ちなみに白魔道士というジョブは回復魔法を使って怪我を直したりするエキスパートとされている。
武器としては片手棍や両手棍を使い刃物のたぐいはタブーとされている……らしい。

戦士というジョブは近接戦闘のエキスパートで様々な武器を使いこなすとされている。
仲間の盾となり矛にもなりうる頼れるジョブである……らしい。
らしいというのは伝聞だからである。今まで外のモンスターを倒すのは一人だったしなぁ……

「では次はわたくしですね。わたくしはラピピ、ウィンダス連邦所属の冒険者でランクは他の2人と同じく
3です。ジョブは黒魔道士に就いております。2人との関係は昔からの知り合いといったところでしょうか
今は3人でパーティーを組んでおりますわ」
フードを外し自己紹介するラピピさん。どうやら彼女は女性のようだ。
フード外してやっとわかるとかちょっと失礼かもだけどね。彼女は前髪を切りそろえて他の部分は伸ばしている。
黒魔道士は攻撃的な精霊魔法を主体とする黒魔法のエキスパートである。

このパーティーはルースくんが前衛で戦い、ルティちゃんが回復をし、ラピピさんが少し離れたところから
攻撃するというパーティーらしい。素人目線でもバランスが取れてるのではなかろうか

それにしても昔からのなじみ同士のパーティーか。
昔なじみかぁ……そういうの考えると日本のことを思い出してしまうな。
今まで考えないようにしてたけど、やっぱ真剣に考えないといけないな。戻れるにしろ戻れないにしろ。
何もかも捨ててこっちへ来るには20年も日本で過ごしてたからなぁ……せめて元気でやってるから
心配するなと伝えられたらいいのだけど……

「ショウ、難しい顔してどうかした?」
おっと顔に出てたかな。
「んっ、ああいや何でもない。ランク3というと俺達よりだいぶ高いみたいだな、俺達より若いみたいなのに
頑張ってるんだな」

「同世代の冒険者より少し高いってくらいですよ。ランクが低くてもすごい人なんていくらでもいますし」
ルースくんはそんなでもおごることなくしっかりとしている。すごいね、うん。
「じゃあ最後に俺だな、俺はミズイショウ、まあここではミズイと呼ばれることはあまりないのでショウとでも
呼んでおくれ。バストゥークに所属する冒険者でランクは1。ジョブは吟遊詩人で、冒険者としてはなんだろ
主に鉱山労働してる」

冒険者としてモンスターを倒したりミッション、クエストをしたりなんかは殆ど無いから名ばかり冒険者
だなぁと再認識する。

「吟遊詩人なのは納得……」
ルティちゃんがぼそっとつぶやく、歌ってたしなぁ
「吟遊詩人というのは納得ですけど、聞いたことないような歌歌ってましたね。ここではあまり聞かないような
感じでしたし」

確か昨日はアニソン10連発とか歌ったんだっけ、アカペラだけど
吟遊詩人の歌というものはメロディーで盛り上がると言うよりは物語を音楽に乗せて歌うといった感じ
で音読プラスメロディーといったほうが近いかも

「うん、あれは俺の故郷の歌なんだ」
なんか深い意味のことを言ってしまったような気がする。実際ただのありふれすぎてるアニソンだったんだが
「そうなんですか、ショウさんの出身はどこなんですの?」

「日本ってところなんだけど、知らないよなー、東のほうの国と近い文化を持つところらしいよ」
つかここの世界じゃないしな。この世界の地理に詳しい人とかが聞いたら日本なんて無いって分かって
変な疑いかけられるところだ。
「ちょっと聞いたことないかも」

「東ですか、わたくしもいったことありませんわ」
「すみません、聞いた事ないですね」
当然の結果である。

「気にすることはないよ、ほんと小さい場所だから誰も知らなくても仕方ない」
「しかし、ショウ様失礼なこと聞くかもしれませんが、鉱山で働いてるというのは何か訳ありなんですの?」
「訳あり?」

ある意味訳ありではあるがどうなんだろ?何かあるのかね
答えあぐねているとジャンが俺に小声で説明をしてくれた。
「ショウはしらないのかもしれないけど、鉱山で働く人というのは何かしら犯罪歴があったり借金を
背負ってたりすることが多いんだ。今はそういう人ばかりではないかもしれないけどね」

ああ、そういうことか。まあ一緒にやる上で犯罪歴があったりするのを気にするのは当然か
「あ、いや俺は特に訳ありとかってわけじゃないよ、ただ鉱山で働いてるってだけさ」
「そうでしたか、申し訳ありません。少し失礼でしたね」
「気になるのは当然だし、気にしないでいいと思うよ」

今まで気にしてなかった問題だし、こういうこともルシウスさんから受けたミッションについて
手助けとなることでもあるしね。偏見、まぁ多少事実に基づいたものであってもこういうのは不満の種
になるものであるし、頭に入れておこう。

「それでは、クエストについて説明しますね」
ひと通り自己紹介が終わり、クエストについて話を受けることになった。今はルース君が説明をしようと
しているところ。

「はい、ジャンさんはもう受けるといってもらいましたけど、ショウさんはまだわからないのでクエスト受ける
かどうかについては内容を聞いてからでももちろん構いません」
それはありがたい、もとより俺もそのつもりだったしね。

「兄さん、依頼者の人が人数集まったら一度来てくれっていってなかった?」
「そうだったっけ、それではえーとジャンさんにショウさん、依頼者の人のところに行くので付いてきて
もらってもいいですか?」
「もちろん」
拒否する理由なんて無いしな。

「助かります、依頼者はここ大工房の2階の広間にいるはずです」

大工房の入口付近から移動してここは大工房2階である。大工房内はそれなりに広いがあくまで建物内のため
あまり移動せずに依頼者のもとにたどり着いた。
「イザベラさん、人数集まったのでクエスト受けさせてもらいます」

依頼人の彼女はイザベラというらしい。
バッサリと短めに切った髪とキリッとした顔立ちは気が強そうな印象を受ける。
「あら、もう見つけたの、さすがね。じゃあ改めてクエストについて説明させてもらうわ。クエストの内容は
私がやろうとしているツアーのモニターよ。あなたたち北グスタベルグの臥竜の滝はご存知?」

一度コンシュタットの入り口までは行った時、その途中で大きな滝を見かけたがそれのことだろう。
俺は頷いた。皆も一様にうなずいて肯定する。

「皆知ってるみたいね。私はあの滝は良い観光名所になると思ってるわ、そこで私はそこを目的としたツアー
旅行を考えてるの。だけど道中はあまり強くないとはいえモンスターや獣人だって居ることもあるから
冒険者の人に頼もうっていうわけ」

なるほど、危険があったりするから荒事に対処できる冒険者に頼んだわけか。
「えーと、モニターといっても何をすればいいんですか?」

とりあえず一番確認して置かなければならないことを聞いてみる。
「そうね、その臥竜の滝まで行って、道中は大変だったかとか、危険だったかとか、ツアーをやる上で
こうすればいいとか、ここはダメだとか様々な意見を聞きたいの、その意見を戻ってきて私に伝えてくれれば
いいわ」

「えーと、俺達が本当に行ったかどうかはどう確認するんですか?行かないで適当な感想言って
報酬だけもらうとかできちゃいそうですけど……」
一回だけとはいえ俺だってその臥竜の滝には行ったことがある。
その記憶を頼りにそれっぽい感想をいうことは簡単である。

「それなら心配には及ばないわ。臥竜の滝には相棒のハンティングベアを行かせてるの。滝の近くまで行けば
居ると思うから彼に会ってちょうだい」
確認役もいるのか、それならちょろまかすこともできなさそうだ。やらないけどね。

第5話

「ミッション……ですか?」
聞いたことのない単語に俺は首を傾げる。

「そうだ、君は初めてか?」
「はい」
「ミッションというのは国家から自国の冒険者に対して発令される正式な任務だ。無論断ることも
できる……上昇志向の強い冒険者が断ることは殆どないがね」

ちなみに俺は上昇志向は低い。というわけで即決せずとりあえず話を聞いてみよう。
「なるほど、とにかく受けるにも断るにも話を聞いてからでいいですか?」
「もちろんだとも、だがここで話すのもなんだ。私の執務室に行くとしよう」

「分かりました、えーっとルシウスさん……でしたっけ?」
職人さんとの会話の中に出てきた名前を思い出すようにしていう。
「そうだ、大統領の補佐官をしている。君の名前は?」

この国は共和制なので大統領がいるけど……名前何だったかなぁ
街頭インタビューで総理大臣の名前を答えられない女子高生みたいだ。

「ショウです、ミズイ ショウ 名前がショウで姓はミズイ」
「ふむ、珍しい名前をしているな……東の方の生まれか?……いや、これはミッションには関係ないことだ
さあ執務室はこっちだ。付いてきてくれ」

ルシウスさんのあとについて水車の力で動くエレベーターに乗り大工房の2回へ進んでいく。
そしてしばらく進むと、屋上の広いスペースにいくつか家のような建物が建っている場所につく。
俺はルシウスさんについてこの中の建物の一つに入っていく。
「ここが私の執務室だ。適当にかけてくれたまえ」
「はい」
手近にあった椅子に座る。やはり大統領補佐だけあっていい椅子だ、柔らかい。
「さて、早速だが本題に入りたい。近頃ツェールン鉱山のガルカ達が不満を持っているという話は聞いたことは
ないか?」
「えーっと……」
不満ねぇ……おやっさんは別に不満なんて口にしてないけど。

それは多分俺とおやっさんみたいに名目上は冒険者として自由に鉱石掘りやってる人たちではないな。
おそらく雇われの正式な職業としての鉱山労働者だろう。
俺とおやっさんが自営業だとすると彼らはサラリーマンってわけである。

俺たちと違ってるのは……鉱石が全然掘れなくても多少生活の保証があるって程度。
そのかわり取り分は俺達より低いみたいだけど。
鉱山で働いているのはガルカが多い。ヒュームとの割合でいうと7:3ほど

そのヒュームもつるはしを持って鉱石を掘るとか現場で開発をするいう仕事ではなく
監督官などの管理職や、事務職などの書類仕事になることが多いらしい。
ガルカという種族は力が強いしこういった形になるのはわからんでもないが
ヒュームとガルカの管理職の割合は露骨ではある。

「あぁ、そういえば、愚痴はたまに聞こえてきますねー」
世間話程度に述べる。
「あぁ、愚痴程度で済むなら問題はないのだ。しかし最近は労働意欲の低下、それに監察官への反抗的な態度
などが目立つようになってという報告があったのだ。これは鉱山の開発や発展に大きく影響することになる」
むむ、ちょっとこの言い方は……鉱山労働者を奴隷か何かだと思っているんだろうか。

「それで、俺に何を頼みたいんですか?」
俺はどちらかと言うと鉱山労働者側の人間なため、ちょっと棘のある言い方になってしまう。

「ここで強圧的に反抗を抑圧することも出来なくはない。だが、それでは後々に火種を残す結果になってしまう
し根本的な解決にはならないだろう。そこで君には調査をしてもらいたい。どのような不満を持っているのか
どうして欲しいのかなどといったことをだ」
俺の棘のある言い方を気にせずして、ルシウスさんは俺にミッションの内容を説明する。

「……内容はわかりましたが、何故俺なんでしょうか?監督官が直接聞くとかもできるような……」
思った事をそのまま言ってみる。だって俺である必要無さそうだし……

「そのようなやり方も考えたのだが、やはり現場の人間にはその考え方に近い人間がことにあたったほうが
いいと考えたのだ。……実際のところ我々が相手だと本音を出してくれないかもしれないというのが
本当のところだ。監督官というのは上司で懲罰を与える仕事もある。そんな相手には不満をぶつけにくいだろう
しな」

なるほどな、確かに監督官というのを鉱山その他の場所で見ることはあるが、あれは話のわかる上司というか
まるで囚人の労働を管理している看守みたいな感じだった。この国の労働の実態は俺には分からないが
あまり正しい姿には見えなかった。見ないふりをするよりこれを改善する助けになればいいかな。
モンスター倒すとかじゃないし。

「……そういうことならこのミッション受けさせてもらいます」
「そうか、ありがとう。報酬に関しては……ランク1の冒険者のミッションの相場とミッションの危険度
などを勘案すると、5,000ギルといったところだろうか?」

へえ、結構貰えるんだな。となるとあのノートリアスモンスターを倒した彼らはどれくらいもらえるんだろう。
「また聞くことになってしまいますけど、何故俺にこのミッションを?監督官については分かりましたけど
俺鉱山で働き出したの半年前ですし、新入りといってもいいレベルなんですけど」
実情だってどれほど知ってるものか怪しいレベル。雇われの人たちとはそもそも立場が違うし……

「ふむ、君の言いたいこともわかるが、正直君に頼むというのもたまたま大工房に居たからというのが大きい
私はこうして執務室の外に出るのは殆ど無いから、君にこうしてミッションを頼まなかった場合は
監督官を通じて、都合のいい冒険者に頼むところだったのだ」

俺はたまたま目をつけられただけということか、まあ俺の秘めた力を見ぬいたとかあるわけないしな。
「なるほど、分かりました。ではミッションを遂行するにあたってほしいものがあるんですけど」
「ほう?何が必要なのだ?」
「まず紙がほしいです。なるべく多めに。自分で用意するのはちょっぴり高くつくので」

この世界の紙は靭皮紙と呼ばれる樹木の皮の繊維から出来た紙で普通の紙と大きな違いはない。
さすがに日本のものほど品質は良くなく、安くもないが俺みたいな一般庶民でも買えない程でもない。
まあこれくらいなら必要経費で出してもらえたらなー程度である。

「なるほど、それは経費で落とすとしよう。すぐに渡す。他に何かあるか?」
そうだなぁ……もうだいたい必要なことは聞いたし、調査は俺の裁量でやる感じだし特にないけど
ああ、そうだ

「ええと、実は俺ここヴァナディールの文字を読むことは出来るんですが、書くのはまだうまくできないので
紙に書いたものを口述で報告する形で行おうと思うんですけど」
この世界の言語はアルファベットのようなものを用いていて日本語とは少し違っている。

何故読めはするのかというと……正直俺にもわからない。人が話しているのはどう聞いても日本語に聞こえる
のだけど、文字にしてみるとまったく違うものなのだ。その文字も単語の意味が頭の中にすっと
意味が入り込んでくる。

ただ、こっちの世界の固有名詞、バストゥークとかツェールン鉱山だとかはそうならない。
魔法とかある世界だし俺はあまり気にしてないけどね。
文字を書くのは別で読めるけどまだうまく書けないというのが現状のところだ。少しは書けるんだけど
報告には使えないなぁ

「ああ、構わない、冒険者が読み書きできない場合があるというのも想定済みだ。……だが読めるのに書けない
とは変な話だな」
「うーん、俺が学んだ文字はここヴァナ・ディールの共通語じゃなくてえーっと、一部の民族の間で使わ
れていた文字でして、共通語はまだ未熟なんす」

「そういうことだったのか、君のような者がいるとはバストゥークも開けた場所になってきたものだ。……
決して馬鹿にしてるわけではないぞ」
「それは分かってますよ。えーっと期限はどんなもんですか?」

「期限か……そうだな、10日以内に頼めるか?これくらいあれば君の仕事の妨げにもならないかと思う」
10日か、妥当なところだな。
「了解しました!では報告をお待ちください」

「おっと少し待ってくれたまえ」
ルシウスさんは机の辺をゴソゴソして何かを集め取り出す
「紙だ、持っていくがいい」
そうして紙の束を受け取った俺はそそくさと立ち去るのであった。

「ありがとうございます!ではこれにて失礼します」
ふぅ、終わったか……お偉いさんというのは結構緊張するなあ
それにしてもジャンのやつ待たせてしまったかな。とりあえず入り口に急いでみよう。

しかし、時間がわからないというのも不便だなぁ、この世界にも時計や懐中時計といったものはあるけれど
俺にはまだ手が出せないし、時計がほしいな。時間に縛られない生活というのも悪くはないけど、やっぱり
不便だよなぁ……

とそんなことを考えているうちに入口近くまでたどり着いた。
ジャンは・・・・・・と、お、いたいた。特徴的な赤毛と長身のおかげでジャンを探すのに苦労はしない。
ジャンはどこか見覚えのある3人組と話しをしているようだ。

「すまん、ジャン待たせた」
俺は話をしている最中のジャンに話しかける。
「あっ、ショウ遅かったじゃないか」

「すまんなやっかいもんにつかまっちまった・・・・・・それでそちらの方は?」
やっかいなもんといってもいいか微妙だがまあいいだろ。
「ショウってば昨日あれほどお世話になったじゃないか」

「・・・・・・むむ?」
3人組を改めて見直す。ヒュームのさわやかブラウンヘアーの男性、ボーイッシュな女の子、タルタル・・・・・・
の性別は見分けがつかんな。フードかぶってるし
見覚えがあるような無いような……

「あれだけ飲んだり食べたりして忘れるなんて……いや、あれだけ飲んだりしたから忘れたのかな」
3人組の一人がつぶやく。いやいや、いつもはあんなに飲み食いしないんだけどなあ
あんなに飲むのはおごってもらうときだけなのにと厚かましいことを考える。

だってここじゃそうしないと貧乏くじ引くんだモン!
「……ん、まてよ……?おごってもらったっていうと……ああ!あの冒険者パーティーか」
「やっと思い出した……」
ジャンがため息をつく。まあ最初以降話してなかったし仕方ない、うん。

「とりあえずまたお礼を言っておこう、ごちそうさま。……でなんでまたその人達と?ジャン知り合いだったの
?」
飲み食いしすぎたから金返せ!とかいわんだろうな。
「いや、さっき知り合ったばかりさ、まあそのへんもおいおい説明するよ」
こうして俺達は自己紹介をする流れとなったのである。
プロフィール

あれまれま

Author:あれまれま
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