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プロローグ

水井晶(ミズイ ショウ)それが俺の名前だ。
この名前のおかげか、小学校で皆が漢字を理解する頃にはあだ名はスイショウ
個人的にはこの呼ばれかたは嫌いじゃない。

年齢は20 大学生で今は3年 家族は両親と姉が一人。家族仲はいいと思う。
今は大学の講義が終わって家に帰ろうとゆっくり歩いているところだ。

正直俺ははダメ人間である。それは能力が特別劣っているというわけではなく性格がである。
自分で言うのもあれだけど性根が腐ってるというか…
今通ってる大学だって受験で楽をしたいからといってレベルを下げて決めたところだし
俺の人生において、精一杯やったことは何ですか?と聞かれても
いくらか時間をもらって考えこんでも何も出てこないというレベルである。
そんなこんなで楽なほう楽なほうで流されていった結果が今の俺というわけである。

でもこんな生き方を俺はキライというわけじゃない。
聞く人が聞けば甘っちょろい腑抜けとか言われそうだけど必要ない苦労はしないというのが俺のポリシーである。

さて俺水井晶は大学生という身分を最大に使って最高にぐうたらな生活を送っている。
講義はサボって家で寝ていたり、程々に切り上げてぶらぶら街を練り歩いたり、友人と一晩中呑んだくれたり
大学の広い図書館で本を積み上げて読んだり、家で楽器を打ち鳴らしたり、やりたいことをすきなようにやっている。

「さて今日はどうしようかな」
そんな俺が、今日ある特別につまらない講義をサボらないはずもなく
今日の残りは自由時間というわけである。

今は大体昼の12時をいくらか過ぎたくらい、まだ昼飯は食べてないし
昼飯食べてからどうするか考えよう。
そうして俺の悩みは今日の昼飯をどうするかということに移ったのであった。

キャンパス内の普段あまり人が居ないベンチ(お気に入り)に座り、考える。
うーん…A定食にするかB定食にするか…無難にカレーもいいが…ラーメンはあまり美味しくないし
定食だとはずれもあるしな…いい天気だし外で食べるのもいいかもしれない。
まあ取り敢えず学食に行ってから考えよう。

そんなこんなで行動方針を決定して立ち上がろうとした時、頭に割れるような痛みが走る。
「ぐっ…なんだこれ…」
生まれてこの方病気らしい病気にはかかったことのない俺でも明らかに異常だとわかる痛み。
何かで頭の中をグリグリとかき回されてるような感覚。

「…はぁこれまずいかも」
誰か人…いないか…ここは人気がないところだし…
頭がボーッとしてきた…だけど痛みのせいで意識はまだ保っている。

「クリスタルに還りましょう…」
俺の頭の中に男性とも女性ともつかない声が響き渡る。
頭がおかしくなったのか…それでもおかしくない、この痛みじゃそうもなる。
頭の痛みはますます強くなっていきそれと同時に、頭の中の声も更に大きくなっている。

「大丈夫、心配することはないのです…クリスタルに還りましょう…」
死ぬってことか?でもこの痛みを止めてくれるならそれでもいいと思ってしまう。
そして頭の痛みの中、ついに俺の意識はだんだんに薄れていく

だけど不思議な安心感がある。このまま身を委ねても大丈夫だと、この声はすべてを受け入れてくれる。
そうだな…クリスタルに還るというのはどんなことだかわからないけど
こういう事なら悪くない。
そうして俺は意識を失った。
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第1話


「おーっし、ショウ、これ終わったら飲み行くぞついてこい!」
「あいっす!お伴します!」

今俺は確実に日本じゃない場所にいる。なぜかって?
この飲みに誘ってくれてる人がどう見ても人間じゃないからさ!日本にこんな人はいないよ。
灰色の肌、でかい図体、人間じゃありえないサイズ(ステロイド飲めばこれくらいいくかも)
それになんといっても尻尾が生えている。でも何故か日本語通じるんだよね。

そういう俺は今鉱山で鉱山夫として働いている。このテンションも動きながらだから仕方ないね。
学生やってた時、つるはし担いでトンカントンカンするとは思わなかったわ。
そうして俺は黙々と作業を続ける。あ、石ころだ、いらね。
半年近くこの作業をやってると結構慣れるものである。

ちなみに今俺がいるこの鉱山は、ツェールン鉱山と言ってバストゥークという国の中にあるらしい。
正式名称はバストゥーク共和国、選挙で選ばれる大統領が治める国である。
国の中にあるからアクセスはしやすく、今開発が進んでいるとのこと。

そういう事情プラスあまり人気のない職種というのも重なってか俺はなんとかこの仕事に
滑り込めたというわけである。日本でいう3Kに入るものね。
お、スズ石か…微妙だな。

俺達は採掘を終えて、今日の戦利品を確認し始めた。
「おやっさん、今日は鉄鉱石結構出ましたねー!」
「おう、そうだな、石つぶてとかスズ石は高くは売れねえからな。需要の多い鉄鉱石が出たのは儲け
もんだ。ま、黒鉄鉱が出れば最高だったんだがな」
「まあそんなうまくはいきませんよ、んじゃ飲み行きましょー、もちろんおやっさんのおごりで」
「ガッハッハ、まあいいだろ、ショウも頑張ってるしな」

この飲みに誘ってくれた、そして俺がおやっさんと呼んでいる人はガルカのグルヴォさん。
でかい図体に、ひげがわっさわっさ生えていて、髪の毛とつながっている。
顔はごついが、よくみると男前な顔立ちをしてるからわからないもんだ。

ガルカというのは先に言ったでかい図体、尻尾が生えてる種族のことをいう。
ちなみに俺みたいな見た目のやつをヒュームと呼ぶらしい。
そして俺を助けてくれたのもグルヴォさんである。

見知らぬ場所に飛ばされて、どうしようもなくふらふらふらついていて、空腹でもうダメだ
となったところグルヴォさんに見つかり保護されたのである。
その時のグルヴォさん曰く

「どうしてあんな所に行き倒れてたんだ…?あそこは鉱山の入り口に近いが、誰もいないことが多い
いわば死角にあたるところ…運が悪いのか」
まあそんなこんなで拾われて、鉱山夫として働くことになったわけである。
拾われて鉱山夫って、どうしようもなく人身売買臭がするけど、まあ結構満足してる。
グルヴォさんには感謝感謝である。

そうして今日のお勤めを終え、鉱石を乗せた台車を押しながら鉱山の入口まで戻る。
鉱山はバストゥーク国内の鉱山区というところにある。鉱山区はこのツェールン鉱山の開発で
結構賑わってるといえる。もっとも昔はガルカの労働者がつどう寂れた地区だったらしい。

「んじゃ、ショウ、とっととこいつを引渡しにいくとするか」
「ういっす」
俺とおやっさんは基本的に、大工房の鍛冶ギルドと契約を結んで、そこに鉱石を卸している。
大工房というのは政府の機能に、大きな工場を合わせたみたいなもので(自分でも意味不明)
もともとは砦だったらしい。そんなことはどうでもよいとして、俺達はそこの鍛冶ギルドに
この掘った鉱石を卸しているというわけである。

鉱山の外にでたはいいが誰も居ないな…いつもはこの時間あたりにギルドの人来てるんだけどなぁ。
そんなこんなで鉱山の入口近くで待っていると、一人の男がやってきた。
「お、グルヴォ今日もご苦労さん、早速そいつ預かるよ」
「お、カール来たか、これが今日の分だ」

このカールさんが、鍛冶ギルドの人である。いつも大体決まった時間にやってきて鉱石を鍛冶ギルド
まで持っていく。ヒュームの男性で年は俺よりだいぶ上、坊主に近い金の短髪で、彫りの深い顔立ち
鍛冶で鍛えられているのか、なかなか筋肉質な体である。

「ふむふむ、鉄鉱石に、スズ石、あとは銅鉱…このくらいの量となると大体…2000ギルといった
ところかな」
「おぉー、おやっさん今日は結構いい感じですね!」
だいたい0~3000位なので今日は結構いいほうである。0な日もあるしね…

ギルというのは、こっちの世界のお金の単位で、大体1ヶ月に10000ギルもあれば最低限の暮らしはできる。
ほんとに最低限だから、すごい苦しいけどね。だからこの2000ギルというのは結構なお金なのである。

まあ冒険者ならこのくらいはらくらく稼いじゃうそうだけど。
冒険者というのは、冒険に何らかの形で関わってる人を言うそうだが、まあ根無し草ともいう。
日本で言うなら個人事業者プラスフリーターみたいな感じ。

ちなみに鉱山で鉱夫として働いている俺だが、身分としてはバストゥークに所属する冒険者。
何故そんなややこしいことになってるかというと、冒険者という身分はとても美味しいのである。

冒険者は国から大きな援助を受けており、無料のレンタルハウス(俺もそこに住んでいる)
身分の保証、ほかにもいろんなところを行ったり来たりする人に得なものもあるらしい。
だから俺も冒険者になってるわけである。まあ20年前にあった戦争みたいに国の危機になったら
軍に編成されるとかいうことはあるけど…まあそれを除けば冒険者になることは得しかない。

「そうだ、グルヴォ、銅鉱はないのか?結構掘れると思うんだが」
「あぁ、それはショウのやつに任せてるんだ、加工したんだろ?見せてやれ」
「あぁ、ちょっと待って下さいね」

グルヴォさんに振られて、俺は背中のバックをゴソゴソと漁る。
そして4つのカッパーインゴットを取り出す。インゴットというのは金属の塊だ。金の延べ棒とか
もそう、これでいうなら銅の延べ棒ってやつかな。

「おお、これは…なかなか不純物も少ないしよく加工されてるじゃないか、1つあたり500ギルで買い取る
がどうだ?」

おぉ願ったり叶ったり、銅鉱の買取価格はインゴット1つ分で100ギルほど、これを加工するだけで
これだけ値段が上がるのか…日本でもそうだけど、こういうところで値段は上がっていくんだなあ。

「じゃあその値段でお願いします」
いつも世話になってるし、値段も悪くないしごねることなんかないしな。
「しかし、ショウ、いつのまにクリスタル合成なんか覚えたんだ?」
「うーん、安定してこれ加工できるようになったのは1週間くらいまえですかね」

俺はこのカッパーインゴットを作るのに鋳造、溶かして型にはめて…という方法を使ってない。
この世界にありふれているクリスタル合成という方法を使ったのである。

クリスタル合成とは何か?
端的にいうと、クリスタルを媒介にイメージを具現化させることで、物質の形状・性質を変化させる
生産手段とのこと。簡単に言うと、材料…例えば今回の銅鉱をインゴットを加工出来る量集めたあと
完成品を思い浮かべ、そしてそのイメージをクリスタルに映す…正直コレは感覚でやってるから
うまく説明できん。で、そうすると鋳造その他の工程抜きに銅の塊ができるというわけ。

日本だったら、紙とインクで紙幣イメージして、お金作成余裕でした!
できるといえば凄さが分かりそう。想像力がだいじな作業である。

クリスタルというのは様々なエネルギーを秘めた結晶体(らしい)で
生き物を倒す?と出てくる。鉱山のコウモリを倒したときも出てきたしな。
まあポンポン出てくるもんだからあまり価値はないんだけどね。

種類は炎、土、水、風、雷、氷、光、闇と8つあって、様々な特性を持っている。
炎のクリスタルは、燃焼のエネルギーを持っており、俺はこれをインゴットの加工に使ったというわけ。

「それじゃあ鉄鉱石、スズ石、カッパーインゴットを合わせて3600ギルで引き取るが、いいか?」
「ああ、頼む」
「直接渡そう、ではほれ」

カールさんはおやっさんにチャリチャリと貨幣を渡していく。ギルは硬貨で
1,10,100,1000,10000と単位分けされている。だから今日もらったのは1000ギル硬貨3つに100ギル
硬貨6つというわけだ。カンタンダネ。
ちなみにギルは偽造防止のため、魔法の透かし彫りが入っているとのことで、合成で通貨偽造余裕でした…
はできないらしい。

「よし、たしかに渡した。では俺は失礼させてもらう」
そうするとカールさんは、おもむろに羊皮紙をとりだし、買い取った鉱石が乗ってる台車を持ちながら
「それじゃ、俺は戻らせてもらう、すまんがこの台車は後で取りに来てくれ」
「あいよ」

まあ日課だしね。それを聞いたあと、カールさんが羊皮紙を掲げると、カールさんと台車は空中に
現れた黒い渦に巻き込まれ消えてしまった。

「まったく、呪符デジョンってのは便利なもんだな。カールの野郎経費で落ちるからってガンガン
使いやがる」
「ですねー、俺らじゃホイホイ使うわけには行きませんもんね」

正直初めて見たときはすごい驚いた。呪符デジョンというのは、デジョンという魔法を封じた羊皮紙で
ある。デジョンは自分が決めた拠点(ホームポイントというらしい)に戻れる魔法で、カールさんは
鍛冶ギルドに設定しているらしい。これがあったら通勤ラッシュなんて無いんだろうなーと思う。
まあご覧のとおりこの世界は魔法が普通にあるらしい、それがわかればOKである。

「よっし、んじゃこれがショウの取り分だ」
お待ちかねの分配タイム…現ナマを受け取るこの感覚。給料銀行振込の現代じゃなかなか味わえないな。
チャリチャリとお金をいただく。
「あれ、おやっさん、ちょっと多いっすよ」

おやっさんとの仕事をやる上での取り決めで取り分は半々としたはずだけど、今俺が受け取ったのは
2000ギル、おやっさんより400ギル多い。
「ショウが加工してくれたおかげで、これだけもらえたんだ。当然の権利だ」
そんなこといったらおやっさんから受けた恩を考えると俺を奴隷労働させる権利もあるレベル。

「うーん、そうはいってもなぁ…んじゃ、この多くもらった分使って飲み行きましょうや!」
「ガッハッハ、ショウがそういうんじゃしゃあねえ、んじゃコウモリのねぐらに行くとするか!」
「ういっす!」

コウモリのねぐらというのはねぐらという文字通り宿屋なのだが、料理や酒も出している。
冒険者も多く集まり、夜は賑やかな場所になる。ちょうど日が暮れてきた頃だしちょうどいいかな。
俺とおやっさんは仕事が終わったあとは大体そこにいく。

レンタルハウスで自炊してもいいんだが、肉体労働の後だときついしな…
そうして俺とおやっさんはコウモリのねぐらに向けて歩き出した。

第2話

コウモリのねぐらについた俺達は取り敢えずテーブル席につく。
まだピークの時間よりは早いのか、客足はまばらである。

この店はグリセルダというおばちゃんがやっていて、昔は旅人用の保存食くらいしか
出してなかったのだが、増える冒険者と開発が進むツェールン鉱山の労働者の要望で、酒と簡単な料理
もだすようになったらしい。

「おやっさんはなに頼みます?」
「そうだなとりあえずソーセージ、それにマトンのロースト、あとはベークドポポト」
「見事に肉ばっかりっすね、まあ腹減ったし、そうだな俺もソーセージにあとはアイアンパンそれと
ニシンの塩漬けにしよう、あと酒はエールでいいですかね?」
エールというのは、製法とかはしらんがビールより苦味は少なく、甘みがある感じだな。

「ああ、頼む」
「ああ、僕もそれで」
「んじゃ注文注文…」
ええっと、エールが3つ…ん?

「何ちゃっかり混じってるんだこの極貧冒険者!」
「ひどいなぁショウ、この僕にはジャンという名前があるというのに」
「おう、ジャンじゃねえか、一攫千金なんか目指したってそうそううまくはいかねえさ、だからお前も
鉱山にだな…」
「おやっさん…それは絶対にゴメンだね、僕はクールでスマートなシーフなのさ」
「クール(笑)スマート(笑)」

なぜかちゃっかり混じってきた、こいつの名前はジャン。
ジャンは、背は俺より頭一つ大きく、整った顔立ちでカッコいいともカワイイとも呼べる感じ、目は優しげで
肩辺りまで伸びた赤髪を流すようにしている。

ジャンは冒険者でシーフとして一攫千金目指して各地を回っているらしい。
それにしては貧乏だけど…たまに訳の分からない剣とか持ってきたりする。

ジャンはエルヴァーンという種族で、俺みたいなヒュームより背丈は大きく、耳が尖ってて
何より美形が多い種族である。まあ俺基準だけどね…この世界の美的感覚はよくわからんし…
こいつと知り合ったのは、大体3ヶ月くらい前、初対面の俺に飯をたかってきたのが最初。
なんで俺だったのかというと、何となくチョロそうだったかららしい。

「いいよお前は極貧冒険者で…まあとにかく久々だな、1ヶ月ぶりくらいか?
奢るから話し聞かせてくれよ」
「ありがたい、それじゃ僕もソーセージ欲しいなー」
「まったく、お前は図々しいなぁ…まあいいや、おばちゃーん!注文おねがーい」
「あいよー」
「それじゃエール3つにソーセージ3つ、マトンのローストに………」
俺はゆっくりと注文を述べていく。

「はい、それじゃすぐにもってくるからねー」

「んで、ジャンお前今回はどこ行ってたんだ?1ヶ月もいないなんて珍しい」
最初に出されたエールを飲みながらジャンに尋ねる。
「ああ、僕は今回ちょっと家に帰ってたんだ」
「家か、確かサンドリアって国にあるんだっけ?」

サンドリアは、正式にはサンドリア王国という。王様が治めている国で伝統のある騎士の国らしい。
「うん、僕長男だからさ…騎士として家継がなくちゃいけないということで
あまりふらふらするなって言われててね、で家帰ったらなかなか外出させてくれなくて」

そういえばこいつのことは極貧冒険者で、シーフやってるということくらいしかしらないな。
意外な一面を見た気分。

「で、どうやったんだ?シーフらしくこそっと抜けだしてきたのか?」
おやっさんが尋ねる。まあどうにか抜けだしてきたみたいだし、どうやったんだろう。
「手紙を置いて居なくなってたらカッコ良かったんだけどねー…実際のところ僕の騎士としての適性の無さ
とか如何にダメダメであるかを根気強く説明したら、呆れちゃってさ…なんとかなった」
「情けなさすぎだろ…」
予想の斜め下の理由だった…

「それじゃどうするんだ?家の方は、継ぐ人いないんじゃないのか?」
「ああ、それなら問題ないよ、僕よりずっと優秀で騎士に向いててやる気のある妹がいるからね」
てかこいつ妹なんていたのね…

「妹がいたなんて初耳だけど、じゃあ別にジャンを連れ戻す必要なんて特になかったんじゃないの?」
最初からやる気があって優秀な奴にやらせたほうがいいに決まってる。
「うん、そのとおりなんだけどね…まあそんな簡単にはいかないんだよね。体裁とか伝統とかあるし…」
うーん、こういうのは万国共通の問題なのかしら…

「ハッ、そんなんだから眠れる獅子とか言われちまうんだサンドリアは」
おやっさんはエールを一気に飲み干すとどうじにヘヘッと笑いながら言葉を吐き出す。
「はは、そういわれると耳が痛い問題だね…サンドリアはそこを直せばもっといい国になるのに」

「ソーセージおまたせー」
「おー待ってました!」
ジャンが歓声を上げる、こいつ人の金だと思って…
「というかおやっさん、ソーセージ来る前に一杯飲んじゃうとは早いっすね…」
思うにガルカという種族は酒に強いのではなかろうか…まあ見た目からして超強そうだけどね。
「まあな」

そういいつつおやっさんは既に2杯目を手にしている。うんそういう人だったね…
取り敢えず俺は届いたソーセージにかぶりつくことにする。このソーセージは羊肉を腸詰めにしたあと
燻製したもので、羊肉を使っているのが特徴といえば特徴かな。シンプルながら肉の旨味
羊に特有の臭みをスパイスで緩和し、ギュギュっとした肉々しいソーセージである。
やすいしうまい俺の主食の一つである。

「そういえばショウは冒険とかにでないの?一応冒険者なんだしさ」
ジャンが俺に尋ねてくる。まあジャンみたいにあっちへふらふらこっちへふらふらしてないけど。
「冒険かぁ、まあいろいろなところ行ってみたいって気持ちはなくはないけど、鉱山の仕事も結構安定
してるし結構気に入ってるんだよね」
注文したニシンの塩漬けをぱくつきながら答える。保存食だけあって塩味が強い。

丁度エールに合うし、アイアンパンにも合う。
アイアンパンというのは、固く焼き締められたガルカ伝統のパンらしいけど、まあフランスパンみたいな感じ
俺の主食の一つ。

「ショウはジョブ吟遊詩人だし、どこからも引っ張りだこだと思うよ」
ジョブというのは、その人がついている戦闘に関する職業をいう。戦士だったら前衛で剣を振るのが得意とか
白魔道士だったら魔法で仲間を癒すのが得意とかである。職業というよりその道のスペシャリストといったほうが
いいかな。冒険者は基本的に必ずジョブについている。

だから俺を表すとすると、水井晶(20) 職業:鉱夫 ジョブ:吟遊詩人 身分:冒険者 とでもいうか。
そして俺がついているのは、吟遊詩人というジョブで、特殊な効果のある歌を歌ったり、楽器を演奏
したりして、見方を強化したり、敵を弱体化させたりすることができるジョブである。

ジョブというのは20種類くらいあるらしいが、ジョブになるにはどうやら心得が必要らしい。
心得というものは、一概にいえるものではなく、気づいたらあったとかそういうこともあるらしい。

まあ基本的にナイトというジョブなら、サンドリアの騎士ならなれるし、狩人なら狩猟民、そういう人達
はジョブにつける事が多いらしい。あまりよくわかってないとのこと。
俺はなんだろうね…楽器を演奏したり歌は結構好きだったけど、そういうことなのかしら。

「そうだなショウ、お前は身分的には冒険者だし、視野を広げるってのも悪くはないと思うぜ、鉱山の
仕事だって無限にあるわけじゃないんだ。枯れたら終わりさ」
おやっさんがマトンのローストを豪快に食べながら俺に言う。確かにな

「それに俺だって鉱山だけでやっていこうと思ってるわけじゃないぜ」
「え!何か他にやってたんですか?」
「おう、言ってなかったが、俺はグスタベルグに畑持ってるのさ。ほとんど作物が育たねえ土地だから
こんな俺でも所有できるわけさ。今はポポトイモが植わってる」

グスタベルグはこの国バストゥークに隣接してる土地で、植物はあまり生えておらず
土と岩だらけの殺風景な土地である。北には川もあるが、鉱山の影響もあるのか飲み水としてはあまり適さない。
厳しい土地である。
「んー、おやっさんもなかなか考えてるんですねー」
「そうだよショウ、君ももっとよく考えなくちゃ」
「お前にだけは言われたくない」
極貧冒険者め

「…とにかく、だから結構不定期に休みあったんですね」
「うむ、どちらかと言うと今じゃこっちのが副業だからな」
まあそれ除いても週8日(こっちでは8日、決まった休みの日とかはない)のうち3日は休みだからなぁ。
週休3日とか…

「ところでショウって休みの日はなにしてるんだい?」
「…おー、定番の質問来たな…っていっても大したことはしてないぞ。楽器演奏したり、ブラブラふらついたり
釣りしたり、クリスタル合成の練習したりだな」
「へぇ~普通だね」

「やかましい、お前が聞いてきたんだろうが…それよりもジャンサンドリア行ってきたんだから何かなかったのか?
俺はコンシュタットくらいまでしか行ったことないしな、教えてくれよ」
「俺も気になるな…あまりこの国周辺から出ないからな」

「奢ってもらったしね、そうだ!こんな話があるんだけど…コンシュタット高地のデムの岩ってあるだろ?」
「まあ近くまで行ったことはないけど、あんなでかい訳のわからないものがどうかしたのか?」

コンシュタット高地は北グスタベルグを抜けたところにある土地で、グスタベルグとは打って変わって
高山性の植物が生息しており、動物層も豊かである。あと時たま強い風が吹くんだが、それはオーディン風
と呼ばれてるらしい。
デムの岩というのはそこにある謎の巨大建築物で、遠くから眺めた事しかないが、どのくらいだろ?
東京ドーム一個分くらい?誰が何のために建てたということも分かってないらしい。

「まあ今回の話はデムの岩本体とは関係ないんだ。その近くでね…地面から声が聞こえるんだ」
「おまえは何を言っているんだ…」
「いや、ほんとなんだよおやっさん…僕の頭がオカシイわけじゃあない何人も聞いてるんだ。
僕も聞いたしね…で、なんて言ってきたかというと、『鞄の中のもの、全部くれ』って」

「へぇ、まあ信じるよ…んでお前はどうしたんだ?」
魔法も当たり前にあるし、しゃべる地面があったっていいじゃないと思える俺は、この世界に馴染みすぎた
んだろうか…
「鞄の中のゴミというゴミを声の聞こえてきたほうの地面に埋めてやった、そしたら…」
「そしたら…?」
地面の神がお怒りになったとかかな…
「もっとくれ!!!って…」
「…ただの声がするゴミ捨て場じゃねーか!」
「うん…」
これがオチなのか?

第3話

「ん…えーっと俺はどうしたんだっけ…?」
窓から差し込む光は眩しく、昨夜からだいぶ時間がたってることを思わせる。
取り敢えずここは俺のレンタルハウスみたいだな。ってか頭いてー…飲み過ぎたかな。

周りを見渡してみると、俺はちゃんとベッドで寝ていたらしい。
シーツがぐちゃぐちゃになってる点を除けば俺の近くに変わっている点はない。
取り敢えず水をのもうとベッドから起き上がってみると…何故か見覚えのある赤毛が床に突っ伏して寝ている。

どうやら熟睡してるみたいだ。疲れてるのかな…まだ寝かしてやろう。
…なんて言うとでも思ったか!
「おい、ジャン!起きろ!」
「…ふぁー…あ、ショウおはよう、うあ…体の節々が痛い、あと頭がいたい…」
「床に直接寝てたからな…頭がいたいのは俺も同じだ」
毛布をかけてあげるとかの気を利かせる余裕なんて俺には無いのさ。伊達に彼女いない歴年齢やってないぞ!

「というかなんでジャンはここにいるんだっけ?」
「えーっと多分、レンタルハウス借りる手続きがめんどくさかったんじゃないかな?」
「酔っ払って手続きはたしかにきついが、何故に疑問形?」
「僕も記憶が曖昧で…」
その点に関してはお互い様だな
「あのあとどうなったんだっけ…」
「えーっと…まてよ…」
そうして俺は昨夜の出来事を思い出してみることにしたのであった。


昨夜、あのまま俺達は変わらずしばらく3人で飲んでいた。
しばらく経つと、ピークの時間帯になってきたのか、冒険者を主とする客が多くやってきた。
まあそれでも俺たちは気にせず飲んだり食ったりしていた。

ここまではあまり普段と変わらなかったはずだ。
しばらくするととある冒険者のパーティーが店に入ってきた。
余談だが、冒険者2~6人からなる集団をパーティーと呼ぶらしい。
まあパーティーなんて冒険者になれば誰でも組むものだし、特に珍しいものでもない。

気にもとめなかった俺達だが、しばらくするとそいつらのテーブルの周りが騒がしくなった事に気づいた。
テーブルの周りにはこの店に来ていた冒険者が集まって、ここからはパーティーのテーブルは見えない。
「なにかあっちのほうが騒がしいみたいだね」
ジャンが気になるようにぼそっと呟く。

「俺も気になる。てことで見てくる、ちょっと待ってな」
てなわけで俺は人ごみの中に突入していくのであった。

近づいてみたけど、あまりよく見えないな…つかこの国の奴らが大きすぎるのが悪い!俺は日本人平均170cm
ちょっとあるけれど、ココの冒険者達は一回り大きい。
しかたないのでその場でぴょんぴょんと跳ねていると、見かねたのか俺の前にいる冒険者は場所を譲ってくれた。
ちょっと恥ずかしい。

どうやらそのパーティーは3人らしい。ヒューム2人に、あとこれはタルタルみたいだな。
ヒュームの一人は男性で、ブラウンの髪を短く切りそろえ流すようにしていて顔立ちはさわやか好青年な感じだ。
彼は目をつぶって腕を組んでなにか考えるような動作をしてる。
一人は女の子で前者の男性と同じブラウンの髪をしている。ボーイッシュで元気ハツラツそうな感じ。小動物を思わせる。
タルタルはわからん…あまり見分けつかないし。フードを深くかぶってるからなおさらだ。

タルタルというのは小柄で子どもくらいの大きさしか無い種族で、力はないが魔法に秀でた種族である。
バストゥークではあまり見かけない。まあ確かにここはタルタルには暮らしにくいだろなと思う。

彼らはテーブルに座りながら何やら話している。特に変哲のない普通の冒険者パーティーに見えるけど…
まあわからないときは周りの人に聞いてみよう。
テーブルの周りを囲んでいた冒険者の一人に話しかけてみる。

「あのー、何をこんなに騒いでるんですか?」
「ん…ああ、あいつらのテーブルの上にある、あの角を見てみろ」
ふむ、よく見ると彼らのテーブルの上には大きな角があることに気づいた。その角はねじくれて巨大で
その角を持った生物はどれほどの大きさがあるんだろう…と俺に想像を促す。

「で、その角がどうかしたんですか?珍しいもの?」
「ああ、珍しいといえば珍しいが、その角の持ち主はランページング・ラムという雄羊で
コンシュタット高地のそこそこ有名なノートリアスモンスターなんだ。
性格は凶暴で、ヘタに出会ったら命の危険もある。
そいつの角がここにあるってことは彼らはそれを倒したってことなのさ」

なるほど、聞いたことはないけど、凶暴なやつを倒したすごいパーティーってことか。
「ノートリアスモンスター?」
「ああ、それは…」
「ノートリアスモンスターっていうのは悪名高きモンスターって意味で、一体一体に個別の名前が付けられてる
モンスターのことなんだ。名前が付けられるだけあって、その地域にいるモンスターとはぜんぜん違う強さを
持ってることが多いです」

あら、彼が答えてくれる前にテーブルに座っていた女の子が答えてくれた。
「へぇーなるほど、ありがとう」
「ノートリアスモンスターなんてだれでも知ってると思ったけど」
「うーん、そのへんに関しては疎くてね」

この世界に半年いる俺だが、一般常識についてはまだ足りない部分が多い。ついでに色々聞いてみよう。
「ところでその角って高く売れたりするの?」
どうでも良い俗っぽい質問をする俺、まあ俺みたいな労働者はこういうのが一番気になるものである。

「うーん、この角自体には普通の雄羊の角の価値しかないけど、こういうの集めてる人なら高く買ってくれたり
するかもしれないって程度だね」
「へー、でも普通の価値しかないならなんでまた倒そうとしたんだ?あまり旨みがあるようには思えないけど」

命の危険を冒して強いモンスターを倒して、得るものが少ないなんて馬鹿らしいし…
「うーん、これは実は国から受けたミッションなんだ。コンシュタット高地で人に害をなしている
ランページング・ラムを倒してくれってね…報酬はこれを証拠に国からもらったから、この角は
ただの記念品くらいだね」

「なるほど、参考までに報酬はどれくらいもらったの?」
まあ俺みたいな労働者はこういうのが一番気になるものである(2度目)
「ふふふ、これくらいかな、ちなみに1,10,100ギル硬貨は入ってないよ」
そういうと女の子はカバンからじゃらじゃらと音を鳴らす小さな革袋を取り出した。

いくら入ってるかは分からないけど、じゃらじゃら音を鳴らせてる時点で少ないという考えは俺にはない。
それを見た他の冒険者はおぉー!と歓声を上げる者や。ほかにもすげー!とか、何故かよっしゃー!
という声まで聞こえる。まあ確かにすごいけど…よっしゃー?

「おいおい、ルティ……」
「ルティさん……」
ルティというのはその革袋を出した子の名前だろう。なぜか男の人とタルタルは呆れたような、笑ってるような
顔をしている。

「やれやれ……皆さん、今日は僕たちのおごりです!好きなだけ飲んだり食べたりしてください!」
パーティーの彼が大声でそう叫ぶと、客はどっと沸き立った。
「よっしゃ!ショウやるじゃねーか」

いつの間にか隣に来ていたおやっさんが、俺の背中をバンバン叩きながらいう。
「いてっ!えっ、何を?」
正直なにがなんだかわからない。

「この酒場のローカルルールみたいなもんなんだが、一仕事終えて大金稼いできたやつは
盛大におごらなくちゃいけないっていうちょっとした決まりがあるのさ」
まあここにしかないがな、とにやりとしながら付け加えるおやっさん。

「えーー、兄さん!そんなの聞いたことないよ!」
ルティという子は兄さんと呼ばれたさわやかな彼に詰め寄る。
「ここはそういうルールだってこと、ルティには言ってなかった……はは、ごめんごめん、まあ多く稼いだヤツ
がおごるってのはそう悪いことじゃあないよ、僕だって駆け出し冒険者だった頃はたくさん奢ってもらったしね」

「んー、なんか出させちゃったみたいでごめんなさい」
取りあえず謝罪を述べておく。そんな意図はなかったからね。
「いや、謝る必要なんか無いです。隠してるみたいにしてた僕達も悪いですしね。ここにいる人たち
分くらいは簡単に出せるくらいはもらったので気にしないでください」
「そうですか、ありがとう!頂きます」
「ええ」
なんて太っ腹な人なんだ。この喜びをジャンに伝えなければ!

「……おーい、ジャン!今日はこの人がおごってくれるってよ!だから俺の分エールもう一杯頼んでくれ!」
というわけでジャンの方に向かって吉報を伝える。
「え、ほんとに!?じゃあ僕もソーセージにもう一杯!ベークドポポトも欲しい!」

冒険者パーティーの3人はそろって目を丸くしながら見合わせている。俺の変わり身の早いこと早いこと。
冒険者というのは遠慮をしない生き物なのである。いや、鉱夫だっけ…?まあいいか

そしてその後好きなだけ飲んだり食ったりして、酔っ払った冒険者どもから
お前吟遊詩人なんだから歌ってくれよと言われて
「アニソン10連発でもいいの?」
「ショウって時々訳のわからないこと言うよね…」

ジャンがごちゃごちゃ言ってたけど無視してアニソンを10連続で歌ったりした、アカペラで。
なぜか、翔べ!ガンダムが盛り上がってた気がする。
昔のアニソンは勢いがあるね、うん。

ちなみに、吟遊詩人が主に使う楽器は、弦楽器、管楽器で俺が持ってるのはハープ、フルートだけである。
ギターでもあれば幅が広がっていいかもなぁ。
そうして時間が過ぎていき、騒がしい夜は続いていったのであった。

そして意識を戻す。
「で、あのあとどうやって帰ったんだっけ?」
「えーっとたしか…僕達飲み過ぎて寝ちゃってたよね」
「うん、それでおやっさんに起こされたんだ『お前ら起きろ、寝るなら家で寝ろ』ってね」

俺達は思い出すように確認していく。
「そのあと、なんとかここまでたどり着いたわけだね」
「みたいだな、あぁー思い出してきた。別れ際おやっさん最後に『明日は仕事休みにするか』って言ってた」
この状態でお仕事はきつい、うん。

「へえ、じゃあショウこれからどうするの?」
「そうだなぁまずは顔を洗って水を飲みたい、そのあとは飯を作る気力ないし……コウモリのねぐらでも行こう」
「オッケー、それじゃ行こうか」

ジャンはさあいこうというように俺を引っ張っぱる。
「…俺は金ださんぞ」
「えっ!?」
この極貧冒険者はもう…

「…えっ!?じゃない、まったく…まあ後でおごってくれたらいいよ」
「いやー、ショウはやさしいなぁ」
「ったく…とっとと行くぞ」
「おー!」
そうして俺達は家をあとにするのであった。

第4話

俺達は共用の井戸に行って顔を洗い水を一杯飲んだあと、朝食を食べにコウモリのねぐらまで歩き出した。
「そういえばショウの家ってだいぶ散らかってたね。綺麗好きだと勝手に思ってたよ」
ジャンがそういえばみたいに言う、確かに俺のレンタルハウスは汚い。いろいろなものが散乱していて
鉱石とか原木や糸など、わけのわからない状況になっている。

「ちょっとクリスタル合成で故郷の品を作りたくてな、いろいろ必要な物を集めてつつ試行錯誤してたら
こうなってしまったというわけだ」
「へえ、ショウの故郷ってどこなの?」
「日本ってとこなんだけど、知らないよな…話を聞くにひんがしの国ってとこに似てるみたいだけど」
「うーん、聞いたことないね…」

まあ当たり前か…ちなみにひんがしの国はこの大陸から海を超え、遠く離れた東にあるらしい。
忍者とか侍とか聞いたことのある単語もその国から来てる。日本とは違うみたいだけどね。
「ところで故郷の品って何かできたの?」
「簡単なのしかできてないけど、今見せられるものと言ったらこれくらいしかないな」

そう言うと俺は腰に備え付けられた小物入れから、細長い容器を取り出す。
そしてそれを開け、中身を取り出す。
「これは?」

「これは箸、これを使ってものをつまんで食べる」
こっちにはフォークとナイフくらいしかなかったからな…
「へぇー、珍しいね、いつも使ってるの?」

「家で食べたり、弁当とか食べるとき使うくらいかな」
わざわざ店でマイ箸を出すようなことまではしない程度だな。

そして10分ほどだらだら話をしながら歩いて、俺達はおなじみコウモリのねぐらにたどり着いた。
コウモリのねぐらは基本的には宿屋で、朝食のサービスもやっていなかったのだが、やはり増える需要に
応えてか、酒と簡単な料理を出すようになった時と同じ時期に朝食を出すサービスを始めるようになった。

最近だと店員が一人増えたらしい。おばちゃん一人だと大変そうだったし、いいことだと個人的には思う。
店の中は昨日あれだけ騒いだにも関わらず、いつもと変わらない状態に戻っている。
朝早いだけあって客足もまばらで、おちついた静かな空間になっている。

「そうだ、ジャン天気もいいし買って外で食おうぜ」
「賛成!ショウにしてはいいこと言うね」
「俺にしてはってのは余計だ…んじゃあ決まりだな」

そう決めた俺達は早速アイアンパンにソーセージを2つずつ買って店をあとにした。
200ギルもあればお釣りが来る。
さっそく腰につけていたブロンズナイフを使い切れ込みを入れたあと、ソーセージを挟み込んで
簡易ホットドッグの出来上がりである。

「よし、これを持って商業区の噴水のある炎水の広場で食べるとするか、これだけじゃ寂しいし
あと途中でロデリュクスさんところでリンゴ買っていこう」
リンゴというのは、フォルガンディ地方特産の妖精のりんごである。
特徴として表面にぼんやりと発行する水玉模様がある。

大量に取れるため値段は安く、ポピュラーな果物である。味は甘味と酸味のバランスがちょうどよく
実も小粒ながら締まっていて美味しい。
フォルガンディは『北壁』と呼ばれる、切り立った山脈を超えた先にある地域で、永久凍土でできた土地。
りんごの栽培はどうしてるのやら…気になるところである。

それから俺達はロデリュクスさんのところでリンゴを2つ買うと、炎水の広場に向けて歩き出した。
炎水の広場とは、バストゥーク商業区にある名物で、憩いの場となっている。
俺達のいる場所からも歩いてすぐ着く場所にある。

しばらく歩くと俺達は炎水の広場についた。炎水の広場は噴水を中心にした円形の広場で、ちょっとした
スポーツができそうなほどには広い。
取り敢えず噴水の周りの縁に座り、一息つく。

「さーて食べるとしましょうかね」
「待ってましたー!ずっと持ちっぱなしだったからねー、早く食べよう」
いえーい食べ物~!とばかりにテンションの上がるジャン。

「マスタードあるけどいるか?」
「おー!準備いいじゃない」
ホットドッグといえばケチャップにマスタードだけど、マスタードだけは家にあったので取り敢えず小物入れに
突っ込んでおいた。瓶詰めのマスタードをスプーンで取って塗り塗り。

「まあな、さて食おうぜ」
がぶりとホットドッグにかぶりつく、アイアンパンは硬いパンなのでこういったものには向いてるか分からな
かったが、なかなかうまい。噛みごたえのあるパンに、ワイルドな味わいのソーセージにマスタードのぴりりと
した味わいがちょうどいい。

隣のジャンを見ると、何も言わず黙々と食べている。何も聞かないでもうまいというのはわかる。
お次はリンゴ、この世界の食べ物はすべて無農薬なんだなぁと考えるとすごいと思う。

服で拭ってから齧る。シャリシャリとした食感がいい。少し酸味が強いがホットドッグの後だと
ちょうどいい具合だ。

「さーて、ジャンよ食い終わったらどうするんだ?というか何時までこっちにいるんだ?」
「そうだなぁ……あと2,3日は居ると思うよ、前の冒険で手に入れたガラクタが売れるにはそれくらい
かかると思うし、その間はこっちに居ると思うよ」
「へえ、競売所に出すのか?」

「まあね、そっちのが早く売れるしね」
競売所というのは、様々な品物が集まる市場のようなものである。
売りたい側は手数料を払って、競売所に品物を預ける。その際この値段以下では売りませんよという最低価格
を明記する。その際によく取引される品目の場合は中央の競売所の取引相場のデータがあるので
それをふまえて設定することが多い。

買いたい側は、競売所に金を払い、競売所はそれを売った側に渡す。
こうしてみると競売というよりかは、国が売買を仲介するフリーマーケットみたいなもんだな。

「まあそれはおいといて、俺は食べ終わったし、鍛冶ギルドにに台車取りに行くけど、どうする?」
鉱石の引渡しに使った台車を取りに行くといくのは俺に定められた仕事なのである。
まあ今日は休みになっちゃったけどね。

「暇だし僕も付いて行っていいかな?大工房ってのも見てみたいし…」
「決まりだな、んじゃ行くとするか」

ということで早速俺たちはすぐ近くの大工房に足を運ぶことにしたのであった。
鍛冶ギルドは大工房という大きな建物の中にある。
この炎水の広場からも歩いてすぐの場所なのでこの用事を済ませるにはちょうどいい。

一応大工房という建物は政府の機能も抱えているんだけど、結構出入りは自由である。
部外者としてはもうちょっと気をつけたほうがいいんじゃないか?と思うのだけれど
なんと凄腕の門番がいるので問題ないらしい。

大工房は2層の構造になっていて、昇り降りするには2階の水車によってまかなわれているエネルギーで
動いているエレベーターを使わなくてはならない。コレが微妙に不便で階段を作って欲しいと常々言っている
んだけど……これは今言うことじゃないな。

「じゃあ僕はいろいろ見てくるから!」
ジャンはというと、大工房に入るなり早速このようなことをいって消えていった。小学生か!
俺は……台車を受け取るだけだな。
早速鍛冶ギルドに行くとするか。

鍛冶ギルドは大工房の1階の広場の先の奥まったところに存在する。
何度も来ているので場所は完璧に覚えている。鍛冶ギルドバストゥーク本部という札がついたドアをくぐり
俺は鍛冶ギルドに立ち入る。ギルドに入った瞬間ムッとした熱気が俺の体を包む。この熱の元はここに
ある巨大な炉である。ここの巨大な炉の煙突は外までつきだしている。

中では数人の職人がせわしなく働いている。……見るからにサボってる人もいるけど。
「すいませーん、台車受け取りに来ましたー」
「あぁ、おたくさんっすか、いつも世話になってるっすー、台車ならそこにあるっすよ」

台車はいつも置いてある隅っこに鎮座している。
「ああ、ありがとうございます」
「あ、ちょっと待ってほしいっす!」
いつもどおり台車を持って帰ろうとしたら、職人さんになぜか引き止められた。

「へ?」
「いや、大したことじゃないんすけどこの前、届いた品にいつもと違ってインゴットがあったんすけど
もしかしておたくさんっすか?」
「あ、はいそうですけど……何か問題でもありました?」
クレームかと思いビクビクする俺。

「いや問題なんてないっすよ、多少品質が悪くてもカッパーインゴットはいつでも需要があるっすからね」
ホッとする俺。でも粗悪ってことなのかと少し落ち込む俺。
「では何の用です?」
「鉱山から鉱石をうちに売って人達の中でインゴットに加工して持ってきた人は初めてだったんす。
だから珍しいなーとそれで少し興味を持っただけっす。もしかして独学っすか?」

「はい、特に人に教わったことはないですね」
いつもと違うものが入ってきたから気になったってところか。

クリスタル合成はイメージがだいじな作業であり、技術が介在する部分は少ない。
それゆえ俺は基本的な部分しか教わっていない。

材料を用意し完成品のイメージをクリスタルに移す。情報が飽和した社会で過ごしてきた俺は
様々なイメージを「知っている」。この前作った箸だってそうだ。ありふれてるけど知らない人に
イメージするのは難しい。
ただ、機械などの精密なものをつくるのは出来ないだろうけど。

「ふむふむ、そうっすか、クリスタル合成もいいっすけど、鍛冶の醍醐味はこの大きな炉で溶けたものを流し込み
鍛え上げ、作り上げることっす。……君も見てればイメージに多少役に立つかもしれないっす」
鍛冶については何も知らない俺にとってこれはありがたい。
あまり鍛冶の現場って見たことないしな……

「ではお言葉に甘えて!友人待たせてるのであまり見てられないのが残念ですけど」
ということで俺はじーっと作業を見守ることにした。
溶けてドロドロになっている鉱石を鋳型に注ぐ。研いで刃をつけ、そして柄を付ける。
それを大量に行なっている。どうやら作ってるのはナイフらしい。

「これは加工しやすい青銅で作ったナイフっす。あまり切れ味は良くないっすけどね」
他の職人さんも剣を作ったり、槍を作ったり、銃弾みたいなものも作っている。
その制作風景、完成品を見ることはクリスタル合成において大事なことだ。おっとお客さんみたいだ。

ちょうどいい頃合いだし、そろそろお暇しよう。そう思い俺は台車の取っ手を手に取る。
「忙しいところ失礼する。この前の軍の備品戦斧500本、石弓250本の納入の件だが……」
「そのことなら……ギルド長なんすけど、まだ出先から帰ってないみたいっすね」
「いないなら構わない、出直すことにするよ。ルシウスが来たとだけ伝えてくれ」
ルシウスと名乗る人物は目当ての人物がいなかったのか、すぐに帰ることにしたようだ。

「ふむ、君は……ツェールン鉱山で働いているのかね?」
と思ったが近くにいる俺に目をつけたらしい。
「ええ、しかしなぜそれを?」
「その台車、鉱山用に国が無償で貸し出しているものなのだ。それを持って行こうとしている君は鉱夫として
働いているのかと思ってね。ギルドの人間には見えないからな」
これおやっさんの私物だと思ってたよ……公共物だったのね。

「……理屈はわかりました、けど俺に何か?」
お偉いさんっぽいオーラが体を固くさせる。苦手でござる……
「そうだった、君は冒険者かい?」
「一応、身分的にはこの国の冒険者です」

冒険者らしいことはあまりしてないけど、冒険者ではあるので本当のことを言う。
「それなら話は早い……君にミッションを頼みたい」

第5話

「ミッション……ですか?」
聞いたことのない単語に俺は首を傾げる。

「そうだ、君は初めてか?」
「はい」
「ミッションというのは国家から自国の冒険者に対して発令される正式な任務だ。無論断ることも
できる……上昇志向の強い冒険者が断ることは殆どないがね」

ちなみに俺は上昇志向は低い。というわけで即決せずとりあえず話を聞いてみよう。
「なるほど、とにかく受けるにも断るにも話を聞いてからでいいですか?」
「もちろんだとも、だがここで話すのもなんだ。私の執務室に行くとしよう」

「分かりました、えーっとルシウスさん……でしたっけ?」
職人さんとの会話の中に出てきた名前を思い出すようにしていう。
「そうだ、大統領の補佐官をしている。君の名前は?」

この国は共和制なので大統領がいるけど……名前何だったかなぁ
街頭インタビューで総理大臣の名前を答えられない女子高生みたいだ。

「ショウです、ミズイ ショウ 名前がショウで姓はミズイ」
「ふむ、珍しい名前をしているな……東の方の生まれか?……いや、これはミッションには関係ないことだ
さあ執務室はこっちだ。付いてきてくれ」

ルシウスさんのあとについて水車の力で動くエレベーターに乗り大工房の2回へ進んでいく。
そしてしばらく進むと、屋上の広いスペースにいくつか家のような建物が建っている場所につく。
俺はルシウスさんについてこの中の建物の一つに入っていく。
「ここが私の執務室だ。適当にかけてくれたまえ」
「はい」
手近にあった椅子に座る。やはり大統領補佐だけあっていい椅子だ、柔らかい。
「さて、早速だが本題に入りたい。近頃ツェールン鉱山のガルカ達が不満を持っているという話は聞いたことは
ないか?」
「えーっと……」
不満ねぇ……おやっさんは別に不満なんて口にしてないけど。

それは多分俺とおやっさんみたいに名目上は冒険者として自由に鉱石掘りやってる人たちではないな。
おそらく雇われの正式な職業としての鉱山労働者だろう。
俺とおやっさんが自営業だとすると彼らはサラリーマンってわけである。

俺たちと違ってるのは……鉱石が全然掘れなくても多少生活の保証があるって程度。
そのかわり取り分は俺達より低いみたいだけど。
鉱山で働いているのはガルカが多い。ヒュームとの割合でいうと7:3ほど

そのヒュームもつるはしを持って鉱石を掘るとか現場で開発をするいう仕事ではなく
監督官などの管理職や、事務職などの書類仕事になることが多いらしい。
ガルカという種族は力が強いしこういった形になるのはわからんでもないが
ヒュームとガルカの管理職の割合は露骨ではある。

「あぁ、そういえば、愚痴はたまに聞こえてきますねー」
世間話程度に述べる。
「あぁ、愚痴程度で済むなら問題はないのだ。しかし最近は労働意欲の低下、それに監察官への反抗的な態度
などが目立つようになってという報告があったのだ。これは鉱山の開発や発展に大きく影響することになる」
むむ、ちょっとこの言い方は……鉱山労働者を奴隷か何かだと思っているんだろうか。

「それで、俺に何を頼みたいんですか?」
俺はどちらかと言うと鉱山労働者側の人間なため、ちょっと棘のある言い方になってしまう。

「ここで強圧的に反抗を抑圧することも出来なくはない。だが、それでは後々に火種を残す結果になってしまう
し根本的な解決にはならないだろう。そこで君には調査をしてもらいたい。どのような不満を持っているのか
どうして欲しいのかなどといったことをだ」
俺の棘のある言い方を気にせずして、ルシウスさんは俺にミッションの内容を説明する。

「……内容はわかりましたが、何故俺なんでしょうか?監督官が直接聞くとかもできるような……」
思った事をそのまま言ってみる。だって俺である必要無さそうだし……

「そのようなやり方も考えたのだが、やはり現場の人間にはその考え方に近い人間がことにあたったほうが
いいと考えたのだ。……実際のところ我々が相手だと本音を出してくれないかもしれないというのが
本当のところだ。監督官というのは上司で懲罰を与える仕事もある。そんな相手には不満をぶつけにくいだろう
しな」

なるほどな、確かに監督官というのを鉱山その他の場所で見ることはあるが、あれは話のわかる上司というか
まるで囚人の労働を管理している看守みたいな感じだった。この国の労働の実態は俺には分からないが
あまり正しい姿には見えなかった。見ないふりをするよりこれを改善する助けになればいいかな。
モンスター倒すとかじゃないし。

「……そういうことならこのミッション受けさせてもらいます」
「そうか、ありがとう。報酬に関しては……ランク1の冒険者のミッションの相場とミッションの危険度
などを勘案すると、5,000ギルといったところだろうか?」

へえ、結構貰えるんだな。となるとあのノートリアスモンスターを倒した彼らはどれくらいもらえるんだろう。
「また聞くことになってしまいますけど、何故俺にこのミッションを?監督官については分かりましたけど
俺鉱山で働き出したの半年前ですし、新入りといってもいいレベルなんですけど」
実情だってどれほど知ってるものか怪しいレベル。雇われの人たちとはそもそも立場が違うし……

「ふむ、君の言いたいこともわかるが、正直君に頼むというのもたまたま大工房に居たからというのが大きい
私はこうして執務室の外に出るのは殆ど無いから、君にこうしてミッションを頼まなかった場合は
監督官を通じて、都合のいい冒険者に頼むところだったのだ」

俺はたまたま目をつけられただけということか、まあ俺の秘めた力を見ぬいたとかあるわけないしな。
「なるほど、分かりました。ではミッションを遂行するにあたってほしいものがあるんですけど」
「ほう?何が必要なのだ?」
「まず紙がほしいです。なるべく多めに。自分で用意するのはちょっぴり高くつくので」

この世界の紙は靭皮紙と呼ばれる樹木の皮の繊維から出来た紙で普通の紙と大きな違いはない。
さすがに日本のものほど品質は良くなく、安くもないが俺みたいな一般庶民でも買えない程でもない。
まあこれくらいなら必要経費で出してもらえたらなー程度である。

「なるほど、それは経費で落とすとしよう。すぐに渡す。他に何かあるか?」
そうだなぁ……もうだいたい必要なことは聞いたし、調査は俺の裁量でやる感じだし特にないけど
ああ、そうだ

「ええと、実は俺ここヴァナディールの文字を読むことは出来るんですが、書くのはまだうまくできないので
紙に書いたものを口述で報告する形で行おうと思うんですけど」
この世界の言語はアルファベットのようなものを用いていて日本語とは少し違っている。

何故読めはするのかというと……正直俺にもわからない。人が話しているのはどう聞いても日本語に聞こえる
のだけど、文字にしてみるとまったく違うものなのだ。その文字も単語の意味が頭の中にすっと
意味が入り込んでくる。

ただ、こっちの世界の固有名詞、バストゥークとかツェールン鉱山だとかはそうならない。
魔法とかある世界だし俺はあまり気にしてないけどね。
文字を書くのは別で読めるけどまだうまく書けないというのが現状のところだ。少しは書けるんだけど
報告には使えないなぁ

「ああ、構わない、冒険者が読み書きできない場合があるというのも想定済みだ。……だが読めるのに書けない
とは変な話だな」
「うーん、俺が学んだ文字はここヴァナ・ディールの共通語じゃなくてえーっと、一部の民族の間で使わ
れていた文字でして、共通語はまだ未熟なんす」

「そういうことだったのか、君のような者がいるとはバストゥークも開けた場所になってきたものだ。……
決して馬鹿にしてるわけではないぞ」
「それは分かってますよ。えーっと期限はどんなもんですか?」

「期限か……そうだな、10日以内に頼めるか?これくらいあれば君の仕事の妨げにもならないかと思う」
10日か、妥当なところだな。
「了解しました!では報告をお待ちください」

「おっと少し待ってくれたまえ」
ルシウスさんは机の辺をゴソゴソして何かを集め取り出す
「紙だ、持っていくがいい」
そうして紙の束を受け取った俺はそそくさと立ち去るのであった。

「ありがとうございます!ではこれにて失礼します」
ふぅ、終わったか……お偉いさんというのは結構緊張するなあ
それにしてもジャンのやつ待たせてしまったかな。とりあえず入り口に急いでみよう。

しかし、時間がわからないというのも不便だなぁ、この世界にも時計や懐中時計といったものはあるけれど
俺にはまだ手が出せないし、時計がほしいな。時間に縛られない生活というのも悪くはないけど、やっぱり
不便だよなぁ……

とそんなことを考えているうちに入口近くまでたどり着いた。
ジャンは・・・・・・と、お、いたいた。特徴的な赤毛と長身のおかげでジャンを探すのに苦労はしない。
ジャンはどこか見覚えのある3人組と話しをしているようだ。

「すまん、ジャン待たせた」
俺は話をしている最中のジャンに話しかける。
「あっ、ショウ遅かったじゃないか」

「すまんなやっかいもんにつかまっちまった・・・・・・それでそちらの方は?」
やっかいなもんといってもいいか微妙だがまあいいだろ。
「ショウってば昨日あれほどお世話になったじゃないか」

「・・・・・・むむ?」
3人組を改めて見直す。ヒュームのさわやかブラウンヘアーの男性、ボーイッシュな女の子、タルタル・・・・・・
の性別は見分けがつかんな。フードかぶってるし
見覚えがあるような無いような……

「あれだけ飲んだり食べたりして忘れるなんて……いや、あれだけ飲んだりしたから忘れたのかな」
3人組の一人がつぶやく。いやいや、いつもはあんなに飲み食いしないんだけどなあ
あんなに飲むのはおごってもらうときだけなのにと厚かましいことを考える。

だってここじゃそうしないと貧乏くじ引くんだモン!
「……ん、まてよ……?おごってもらったっていうと……ああ!あの冒険者パーティーか」
「やっと思い出した……」
ジャンがため息をつく。まあ最初以降話してなかったし仕方ない、うん。

「とりあえずまたお礼を言っておこう、ごちそうさま。……でなんでまたその人達と?ジャン知り合いだったの
?」
飲み食いしすぎたから金返せ!とかいわんだろうな。
「いや、さっき知り合ったばかりさ、まあそのへんもおいおい説明するよ」
こうして俺達は自己紹介をする流れとなったのである。

第6話

「とりあえず、ジャンさんちょっといいですか?」
3人組のローブを着てフードを深くかぶっているタルタルがジャンに尋ねる。フードのおかげか性別が分から
ないな、声を聞いてもどちらとも聞こえるし。

「なんだい?」
「とりあえず自己紹介でもしませんか?わたくしたちはお互いのことよく知らないわけですし、その他のことは
そのあとで説明するのがよろしいかと……遠慮がないということくらいしかしらないですし」
なんかぼそっとつぶやかれた。まあそのとおりではあるんだけどさ
食える時に食うというのが信条であるので反省はしない。なかなか毒舌であるな。

「それもそうだね、それじゃあ僕から、言うのは2回目だけど、僕はジャン。サンドリア王国に所属する
冒険者でランクは1、ジョブはシーフをやっている。冒険者としては各地のお宝を探し歩くトレジャーハンター
といったところかな?」
ジャンのやつは肩書きだけ聞くとカッコいいんだけどなぁ、トレジャーハンターとか

まあお宝というよりガラクタ見ることのが多いけどね。そんなことより
「なあジャン、ランクって何?」
「そこにつっこまれるとは思わなかったよ……まあいいや、ランクっていうのはね、冒険者の所属している
国が冒険者に貢献度とかいろいろなものを考慮して与えられる地位のことなんだ。ランクは1から10まで
あって10に近いほどその地位が高くなるんだ」

「へぇー、ランクが上がるとなにか得があるのか?」
「そうだなぁ……お金がもらえるとか直接的な得はないと思うよ。ただランクが上がるってことはその国に
おける重要な人物になれるってことだから、上昇志向の強い冒険者はランクをすごい気にしてることが多い
かな」
手柄を立てて仕官するぜ!みたいな感じか
「なるほどな」

とすると今のところランク上げることを目指す必要はないらしい。偉くなりたいとかあまり思わないしね。
「とすると1のジャンは駄目駄目だってことじゃないか」
「ぐっ、そんな事言ったらショウだってそうじゃないか。僕には国での地位なんて関係ないのさ」
まあそういうの重視してたら家継いでるわな。

「えーとジャンさんにひとつ聞いてみたいんだけど、いいかな?」
ボーイッシュな女の子がジャンに尋ねる。
「何かな?」

「ジャンさんはトレジャーハンターらしいですけど、どんなお宝があるのかなぁって」
「うっ……い、今は競売所に出したばかりだから手元にはは何もないんだ。ハハ、残念……」
すごいうろたえてるな。ガラクタだろうし仕方ないといえば仕方ないが

「そうなんですかー……残念」
結構がっかりしてるな、まあ見てもがっかりするだろうけど……
「じゃあ気を取り直して、次はわたしが、わたしはルティ、バストゥークに所属してる冒険者でランクは3で
ジョブは白魔道士。ああ、それとそこにいるルースの妹やってます。冒険者としては色々なことやってるかな

へえ似てると思ったけど兄妹だったのか。

「それではついでに、僕はルース。同じバストゥーク所属の冒険者でランクは同じく3、そしてルティの兄です
それと、ジョブは戦士をやってます。冒険者としては、ルティと同じですね、様々なことをやってます」
ちなみに白魔道士というジョブは回復魔法を使って怪我を直したりするエキスパートとされている。
武器としては片手棍や両手棍を使い刃物のたぐいはタブーとされている……らしい。

戦士というジョブは近接戦闘のエキスパートで様々な武器を使いこなすとされている。
仲間の盾となり矛にもなりうる頼れるジョブである……らしい。
らしいというのは伝聞だからである。今まで外のモンスターを倒すのは一人だったしなぁ……

「では次はわたくしですね。わたくしはラピピ、ウィンダス連邦所属の冒険者でランクは他の2人と同じく
3です。ジョブは黒魔道士に就いております。2人との関係は昔からの知り合いといったところでしょうか
今は3人でパーティーを組んでおりますわ」
フードを外し自己紹介するラピピさん。どうやら彼女は女性のようだ。
フード外してやっとわかるとかちょっと失礼かもだけどね。彼女は前髪を切りそろえて他の部分は伸ばしている。
黒魔道士は攻撃的な精霊魔法を主体とする黒魔法のエキスパートである。

このパーティーはルースくんが前衛で戦い、ルティちゃんが回復をし、ラピピさんが少し離れたところから
攻撃するというパーティーらしい。素人目線でもバランスが取れてるのではなかろうか

それにしても昔からのなじみ同士のパーティーか。
昔なじみかぁ……そういうの考えると日本のことを思い出してしまうな。
今まで考えないようにしてたけど、やっぱ真剣に考えないといけないな。戻れるにしろ戻れないにしろ。
何もかも捨ててこっちへ来るには20年も日本で過ごしてたからなぁ……せめて元気でやってるから
心配するなと伝えられたらいいのだけど……

「ショウ、難しい顔してどうかした?」
おっと顔に出てたかな。
「んっ、ああいや何でもない。ランク3というと俺達よりだいぶ高いみたいだな、俺達より若いみたいなのに
頑張ってるんだな」

「同世代の冒険者より少し高いってくらいですよ。ランクが低くてもすごい人なんていくらでもいますし」
ルースくんはそんなでもおごることなくしっかりとしている。すごいね、うん。
「じゃあ最後に俺だな、俺はミズイショウ、まあここではミズイと呼ばれることはあまりないのでショウとでも
呼んでおくれ。バストゥークに所属する冒険者でランクは1。ジョブは吟遊詩人で、冒険者としてはなんだろ
主に鉱山労働してる」

冒険者としてモンスターを倒したりミッション、クエストをしたりなんかは殆ど無いから名ばかり冒険者
だなぁと再認識する。

「吟遊詩人なのは納得……」
ルティちゃんがぼそっとつぶやく、歌ってたしなぁ
「吟遊詩人というのは納得ですけど、聞いたことないような歌歌ってましたね。ここではあまり聞かないような
感じでしたし」

確か昨日はアニソン10連発とか歌ったんだっけ、アカペラだけど
吟遊詩人の歌というものはメロディーで盛り上がると言うよりは物語を音楽に乗せて歌うといった感じ
で音読プラスメロディーといったほうが近いかも

「うん、あれは俺の故郷の歌なんだ」
なんか深い意味のことを言ってしまったような気がする。実際ただのありふれすぎてるアニソンだったんだが
「そうなんですか、ショウさんの出身はどこなんですの?」

「日本ってところなんだけど、知らないよなー、東のほうの国と近い文化を持つところらしいよ」
つかここの世界じゃないしな。この世界の地理に詳しい人とかが聞いたら日本なんて無いって分かって
変な疑いかけられるところだ。
「ちょっと聞いたことないかも」

「東ですか、わたくしもいったことありませんわ」
「すみません、聞いた事ないですね」
当然の結果である。

「気にすることはないよ、ほんと小さい場所だから誰も知らなくても仕方ない」
「しかし、ショウ様失礼なこと聞くかもしれませんが、鉱山で働いてるというのは何か訳ありなんですの?」
「訳あり?」

ある意味訳ありではあるがどうなんだろ?何かあるのかね
答えあぐねているとジャンが俺に小声で説明をしてくれた。
「ショウはしらないのかもしれないけど、鉱山で働く人というのは何かしら犯罪歴があったり借金を
背負ってたりすることが多いんだ。今はそういう人ばかりではないかもしれないけどね」

ああ、そういうことか。まあ一緒にやる上で犯罪歴があったりするのを気にするのは当然か
「あ、いや俺は特に訳ありとかってわけじゃないよ、ただ鉱山で働いてるってだけさ」
「そうでしたか、申し訳ありません。少し失礼でしたね」
「気になるのは当然だし、気にしないでいいと思うよ」

今まで気にしてなかった問題だし、こういうこともルシウスさんから受けたミッションについて
手助けとなることでもあるしね。偏見、まぁ多少事実に基づいたものであってもこういうのは不満の種
になるものであるし、頭に入れておこう。

「それでは、クエストについて説明しますね」
ひと通り自己紹介が終わり、クエストについて話を受けることになった。今はルース君が説明をしようと
しているところ。

「はい、ジャンさんはもう受けるといってもらいましたけど、ショウさんはまだわからないのでクエスト受ける
かどうかについては内容を聞いてからでももちろん構いません」
それはありがたい、もとより俺もそのつもりだったしね。

「兄さん、依頼者の人が人数集まったら一度来てくれっていってなかった?」
「そうだったっけ、それではえーとジャンさんにショウさん、依頼者の人のところに行くので付いてきて
もらってもいいですか?」
「もちろん」
拒否する理由なんて無いしな。

「助かります、依頼者はここ大工房の2階の広間にいるはずです」

大工房の入口付近から移動してここは大工房2階である。大工房内はそれなりに広いがあくまで建物内のため
あまり移動せずに依頼者のもとにたどり着いた。
「イザベラさん、人数集まったのでクエスト受けさせてもらいます」

依頼人の彼女はイザベラというらしい。
バッサリと短めに切った髪とキリッとした顔立ちは気が強そうな印象を受ける。
「あら、もう見つけたの、さすがね。じゃあ改めてクエストについて説明させてもらうわ。クエストの内容は
私がやろうとしているツアーのモニターよ。あなたたち北グスタベルグの臥竜の滝はご存知?」

一度コンシュタットの入り口までは行った時、その途中で大きな滝を見かけたがそれのことだろう。
俺は頷いた。皆も一様にうなずいて肯定する。

「皆知ってるみたいね。私はあの滝は良い観光名所になると思ってるわ、そこで私はそこを目的としたツアー
旅行を考えてるの。だけど道中はあまり強くないとはいえモンスターや獣人だって居ることもあるから
冒険者の人に頼もうっていうわけ」

なるほど、危険があったりするから荒事に対処できる冒険者に頼んだわけか。
「えーと、モニターといっても何をすればいいんですか?」

とりあえず一番確認して置かなければならないことを聞いてみる。
「そうね、その臥竜の滝まで行って、道中は大変だったかとか、危険だったかとか、ツアーをやる上で
こうすればいいとか、ここはダメだとか様々な意見を聞きたいの、その意見を戻ってきて私に伝えてくれれば
いいわ」

「えーと、俺達が本当に行ったかどうかはどう確認するんですか?行かないで適当な感想言って
報酬だけもらうとかできちゃいそうですけど……」
一回だけとはいえ俺だってその臥竜の滝には行ったことがある。
その記憶を頼りにそれっぽい感想をいうことは簡単である。

「それなら心配には及ばないわ。臥竜の滝には相棒のハンティングベアを行かせてるの。滝の近くまで行けば
居ると思うから彼に会ってちょうだい」
確認役もいるのか、それならちょろまかすこともできなさそうだ。やらないけどね。

第7話

「話はついたみたいね、それではよろしく頼むわ」
イザベラさんからクエストを受けた俺達は
「さて、色々準備とかあるでしょうし、準備ができ次第、鉱山区側の南グスタベルグ入口の門に集合と
しましょうか。往復で一日はかかる距離はあるので、それなりの準備はお願いします」

というルース君の一言で別行動中なのである。現在俺は一人
ジャンのやつはなにか取りに行くものがあるといって俺のレンタルハウスへ装備やその他もろもろ
をとりに一緒に戻ったあと、別行動をしている。

俺の準備といってもあまり大した事はない。普段使い用のブロンズナイフ、ナイフだと戦闘中相手に近づくのが
ちょっと怖いので適当に合成したブロンズソード、防具としては防具屋に安く売っていたレザーアーマー一式
それと吟遊詩人に必須の楽器、フルートにメープルハープである。それにアイアンパンに干し肉、ポポトイモ
等の食料に水ををコウモリのねぐらで買ってさらに毛布や雨具等を持ち準備完了というわけである。

 まあこのように準備も少なく(日本のようにサイフひとつで出かけられることを考えると多すぎるくらいだけ
ど)自分のレンタルハウスから近いところにある集合場所ということで
俺は一番乗りというわけ。

ここ南門は一歩出ると南グスタベルグに通じている。まさに街と荒野との境目である。石造りの街の風景が
その一歩を踏み出すと岩と砂の光景になるというのだから。
しばらくぼーっと立ちながら時間を潰していると、どうやら2人目が来たご様子。

彼女は魔法使いが着るようなローブを着て、頭には髪飾り、そして腰にはなんか叩かれたらやばそうなハンマー
をぶら下げている。
「おー、ルティちゃんが2番か」
「る、ルティちゃん……え、えーと、ちゃんはやめてもらってもいいかな……なんかムズムズする」
ちゃん付けはまずかったかしら。
「そ、そう?じゃあなんて呼べばいいかな」
「普通に呼び捨てでいいかと」
うーむ、女性経験の無さがここに現れるわけか、自分で言ってて悲しい。
「じゃあ、ルティ……でいいかな」
「はい!」

「誰かもういるとは思わなかった。あたし結構早く来たのに」
ルティちゃんは少し不満気に言う。
「まあレンタルハウスここから近いからな、それに準備する店も近いし……ところでそのハンマーは?」
ジモッティの利というわけであるな。

だけどそのことよりも今はそのごついハンマーが気になっている。
「これのこと?これはバストゥークの10人隊長の武器として正式採用されてるハンマーなんだ、だから
いい品だと思うよ」
「た、たしかにすごそうだな」

うーん俺は、白魔道士というのはパーティーの回復や治療のエキスパートで
俺は誠に勝手ながら白衣の天使的なのを想像していた。よって現実との剥離に悩んでいると
「む、もしかしてそんなの扱えるのかと思ってる?わたしはどっちかというと魔法よりこっちのほうが
向いてるくらいだし、こう見えても得意なんだよ」

そっちではないんだけど……いや、特に疑ってはいない。この世界の人は体が小さくても力あったりするしね。
ただ脳内のイメージとの相違について悩んでいただけなんだ。とはいえないので
「いや、特に疑ってはないよ、頼りにしてる」
という無難な返し方しか出来ないのであった。

俺が思うに、この世界で暮らしている人は、俺より若くてもすごくしっかりしてると思う。モンスターが
その辺を闊歩して、国から一歩出れば安全は保証されない。その上敵対している獣人もいる。
今は小康状態らしいけどね。だから日本でのほほん学生やってた俺にとっちゃ会う人会う人若いのに
すごいなあとか思うよホント(俺も十分若いというのにね)
だから年上面出来ない、できにくい!

何でこんなことを考えているのかというと
「そういえば年上に見えるけど、ショウさんっていくつなの?」
「えーと、今は20、いや21歳になったところかな、ジャンも同じ位って聞いた」
と年齢の話題になったからである。

「へえ、私たちより結構上なんだね」
「そうなのか?」
「うん、私が15で兄さんは17だし、ラピピ姉さんも兄さんと同じだよ」
「へえ、結構俺より下なのね……いやあ若いのにしっかりしてるな」
「ショウさんも十分若いじゃない……」

てかまあガルカという俺より2倍は長く生きる種族が存在するという時点で年齢なんか飾りなのかもなとも思う。
おやっさんはいくつなんだろなぁ。

「そういえば普通に酒場に居たような気がするけど、何歳からとか無いの?」
「え?どういうこと」
「いやあ、普通お酒って何歳以上は飲んじゃダメとか無いのか?」

「えー、それは聞いたことないな。ショウさんの故郷だと決まってるの?」
「まあな、俺の故郷では20歳になってからって決まってたよ。守ってない奴も居たけどね」
「へぇーそうなんだ、変わった決まりだね」

いや、俺にとっては決まってないほうが違和感あるんだが、殆どの国で決まってたと思うけどなぁ。
まあこの世界の常識とは違うのは当たり前か。

「まあそれはおいといて、ラピピ姉さんって言ったけど何でまた姉さんなんだ?実の姉妹というわけでは
無さそうだし……」
「うーん、詳しく話すと長くなるけど、あたしと兄さんは小さい頃両親の都合でウィンダスに行ってたんだ」
ウィンダスというのは、正確にはウィンダス連邦という。
それなりに遠いらしいので俺はまだ行ったことはない。

「へぇ~、ウィンダスかまだ行ったことないなぁ、タルタルとミスラがたくさんいる国だっけ?」
「うん、そうだね、ほとんど、いや全くといっていいほどいなかったかなー。だから最初は友達とかも全然
できなくてね」
「へえ」

俺がこの世界にきて学んだことを頭から引っ張りだす。
この世界には種族というか、人間でいう人種の違い(まあかなり違うけど)があって

まずは俺みたいな日本人ってか地球人っぽい見た目ののヒューム。
でおやっさんみたいな、でかい、ごついプラス尻尾のガルカ。
そしてジャンみたいな、ヒュームに似てるが、比較的背が大きく、尖った耳をしているエルヴァーン
まあ物語で言うエルフみたいな感じ。
次にラピピさんみたいな、背は子ども程度で丸っこいはなに尖った耳のタルタル。
で、最後にミスラ、知り合いにはいないけど見たことはある。えーと獣のような耳と鼻に尻尾
なんというかネコのような印象を受けた覚えがある。
そういえばガルカは男性しか見たことないな。

「それで色々あって、あっちで最初に仲良くなって一緒にいるようになって、それから姉さんと
呼ぶことになったんだ」
「そうなんだ、長い付き合いなんだな」
「うん、冒険者になったら一緒に仕事しようねってその時3人で決めて、それで3人でやってるんだ。
あ、兄さんとラピピ姉さんが来たみたいだよ」

見ると遠くからルース君とラピピさんがこちらに向かって手を振りながら歩いてきている。
「……あとここだけの話だけど、兄さんとラピピ姉さんはちょっと怪しいと思ってるんだよね」
まだこちらに到達しないという距離で、ルティは俺にニヤリと笑って小声で言う。
怪しいってのは……ああ、そういうことか。異種族恋愛ってのもありなのかねー。
この世界にきて半年の俺はそのことが含む意味については分からない。だけど笑って教えてくれること
なら別にタブーというわけではないんだろうな。

「おまたせしました。ああ、ルティ早めに来てたんだね」
「ショウさんも来てるとなるとあとはジャンさんだけみたいですね」
とりあえずこれで4人揃って残るはジャンだけ。

「うっジャンのやつが遅くて申し訳ない……」
「いや、特に決めてなかったし気にしないでください」
笑いながらルース君は俺に言ってくれる。顔の爽やかオーラにさらさらヘアー
なんかイイ人オーラと爽やかオーラに包まれている。

「いやあありがたい、ったくジャンのやつ何やってるんだ」
とまあ4人揃ってからかれこれ数十分経っているのであるが(時計は門の横のゲートハウスという衛兵がいる
場所に置かれているのですぐ確認できる)


「ット噂をしていれば来たみたいだな」
遠くから小走りでこちらに向かってきているジャンが確認できる。
「いやーちょっと遅くなってごめん、準備があってね」

「特別すごく遅くなったわけじゃないからいいけど、何してたんだ?」
「えーっとね実はこれを買っていたんだ」
ジャンはじゃーんといいながら(ダジャレではない!)腰から一振りの短剣を取り出す。

「きれい……」
「まあきれいな短剣ですわね」
「おぉ~これはこれは……」

みな違う反応をする。その短剣は青みがかっていて、大きさは大体手の先から肘くらいあり
俺も普通に見とれてしまった。
「うん、この反応なら買ってよかったなぁ……実は綺麗なだけじゃないんだ、そうだなぁラピピさん持って
もらってもいいかな?」
「わたくしには少し大きいみたいですけど、はい」

ジャンがラピピさんにその短剣を手渡すが、タルタルサイズではないその短剣はラピピさんにとって
片手剣ほどのサイズになってしまう。何を意図しているかは分からないが、サイズは合っていないことは確か
だな。

「まあ……とても軽い」
そのタルタルのラピピさんにとっては大きな短剣であるが、ラピピさんは軽々とブンブン振り回している。
「そうなんだ、この短剣はとある蜂の針をつかって作られた品でね。なかなか貴重なものなんだ。
刃に鉄やブロンズを使ったりはしてないから、びっくりするほど軽いんだ」
数カ月前の俺だったら、蜂がそんな大きな針持ってるわけねーだろ!ってツッコんでたところだったけど
今ならまあいるんじゃないかなと思える。

「モンスターがその生きる年月を重ねることでそういう武器の素材になったり、様々な加工ができるものを
体に宿すことはよくあることですが、いい買い物しましたね」
ルースくんは冷静に品評をしている。どうやら悪い品ではないことは確かなようだ。

だが俺には別の要素の心配事というか気になることがある。それは
「その短剣が凄そうなのは分かったけどさ?お前金あったっけ??」
俺は当たり前の質問をする。だって昨日俺に飯をたかってきたしな、お金なんてないと思うだろ普通。

「えーとね、実は競売に出した品物が早速いくつか売れていたんだ。クゥダフの甲羅なんて何に使うかわからな
いものも売れてたし、ありがたいよ。それでいくつかまとまったお金が手に入ったからね、早速買っちゃった」
「そうだったのか、結構高かったんじゃないのか?」
意外とトレジャーハンターっぽいことやってるのねと妙に感心した。
「うん、僕の持ってるお金殆ど使っちゃったよ」

「そうか……それで俺達は今から依頼を受けたクエストを遂行しようとしてるわけだけど……お前身軽過
ぎないか?」
見る限り、ジャンの装備はいつものレザー装備にちょっとした小物入れといった程度で、とても1日かけて
クエストを進行するようには見えない。ちょっとコンビニ行ってくるわ!とでも言いそうな装備である。

「そうかな?」
「そうだよ!食料とか買ってないのか?」
「……あ、忘れてた」
やはりこうなるか……前から思うにこいつはちょっと抜けているところがあると思う。つかこの世界初心者の
俺のがしっかりしているという状況はおかしい……

「まあいい、そんな短剣買えるくらいだし、一日分の食料くらいは買えるくらいは残ってるだろ?」
「あはは……実はこれくらいしか残ってないや」
そういうとジャンはゴソゴソと小さな袋に手を突っ込み、一握りのギルを取り出した。

「えーと、これは24ギル…だな」
「うん……どうしよ」
どうしよ、じゃないよ!とツッコミたい俺だったが正直これ以上時間を伸ばすとクエストの進行に支障が出る
からな。

「……まったく、朝の時点でお前に手持ちがないことはわかってたし、一応お前の分くらいは用意してあるから
安心しろ」
「ショーウ!ありがと~!!」
「ぐおっやめろっ!抱きつくな~!」
同じくらいの年の男に抱きつかれても嬉しくもなんともない。

てか俺もダメ人間だと思ってるけど、こいつといるとまっとうな人間のように思えてならない。
どうしてこうなった……


第8話

「さて、では揃ったことだし向かいますか」
現在はだいたい昼を過ぎたあたり、準備の段階で適当に急いでその辺にあるものを口に入れたため、特別腹は
減っていない。

「えーと滝まではどれくらいかかる予定?」
「ん~、そうですね……時間にしては今から行ったら、明日の夜になるくらいですね、
夜営地には半日かかるかかから無いかくらいだと思います。
急いでいけばもう少し早くつきますけど、夜進むのはなるべく避けたいので
途中で夜営することになると思います」

ふむ、大統領補佐のルシウスさんから受けたミッションの期限はまだまだ余裕あるし
明日は普通の休日だけど、明後日は疲れて鉱山仕事なんか出来ないかもなぁ……
まあサボっても特に何もないというすごい職場だけど……おやっさんは俺が来る前に一人でもやってたしね。

帰りの時間を考慮に入れてないのは、皆デジョンの呪符を持っているからである。
デジョンというのは自分の決めた拠点に戻ることのできる魔法で、呪符というのはその魔法が封じられている
羊皮紙である。使い捨てだけどすごい便利なもので一度使うともう普通に帰るのはいや!と言いたくなるほど
基本的に冒険者は常備しているといってもいい。

「ありがと、質問はもうないよ」
急ぎではないが、のんびりしすぎると日が暮れてしまうからな。

「よし、では出発しますか」
このパーティーではルース君がリーダーを務めるようだ。俺よりベテランだし、ジャンは向いてなさそう
だから、当然かな。もちろん異論はない。ルース君は雰囲気がリーダーぽいからな……

「お~!」
ジャンが気の抜けるような掛け声をかける。
まあそんな大層な依頼でもないし、こんな感じで行くとしますか!

さて、滝まではどう行くんだったっけ……。前行ったときは適当に進んでいったからなぁ。あの時は食料も
野営の準備もろくにしないで勢いだけで進んでたし……よく生きてたな俺。
しかし今回の俺はただついていくだけで問題無いというところが楽なところである。

今は先頭がルース君、次にラピピさんとルティが並んで、最後尾に俺とジャンという隊列で進んでいる。
……体の小さなラピピさんが俺らと同じくらいのスピードで無理せず進んでいるのは驚いた。

今のところは街道も整備されて快適な旅である。現在の場所南グスタベルグは荒れた土地で、雨も少なく
岩と土の支配する土地であるが、国に近いこの場所ではそんなところでも育つことのできるポポトイモや
たまごナスが植えられた畑がポツポツとある。

おやっさんの畑はどの辺にあるんだろうなぁとか考えたりおしゃべりも交えながら俺達は進んでいく。
俺とジャンが適当な冗談を交わしたり、ラピピさんが先頭のルース君にちょっかいを出したり、それにルティ
が便乗したり、更に俺達が便乗したり(悪ノリ)とまあこんな道中である。

襲ってくるモンスターとかもおらず、平和と言う一言に尽きる。40~50cmはあるハチとか、俺の腰くらいある
ミミズとか、わけわからない動く(発芽した)種などなど、いくらでも見かけたりはするけど、襲ってきたり
はしないし、俺はいちいち驚いたりはしない。
さすがに6ヶ月もいりゃこうなるのさ!
なんか順応し過ぎて怖いレベル、言葉が通じるのが大きいんだろうなぁ。

まだまだ先は長い、どうせだし歩いている皆の様子を見てみる。ルース君は度々地図を見ながら道を確認
している、もはや俺の中でのリーダー像が確定するほどの働きっぷり、そして、ラピピさんと確認しあったり
している。ラピピさんは参謀的な感じかしら。ルティは2人をニヤニヤしながら見ている。

2人は怪しいって言ってたし、それをウォッチングするのに忙しいのだろう。
ジャンは度々新しく買った短剣を腰から抜き眺め、戻し、眺めを繰り返している。
まあ何もしてないようなもんだし、ちょいと思ったことでも聞いてみよう。

「そういやジャンよ」
短剣を眺めていたジャンが腰に戻し、反応する。
「ん、何だい?」
「お前って地図とか持ってるの?」

ルース君の地図を見る姿を見て、ちょっと気になったことである。
こいつのことだから持ってないだろうな……俺も持ってないし。
「ん、もちろん持ってるけど?とはいえ主要な3国周辺の地図くらいしかないんだけどね」
何だ持ってるのか、ジャンのことだから星を見てそれを頼りに移動してそうなのに……

「なんだ、お前のことだから持ってないと思ったよ」
「いや、冒険者の必需品といってもいいくらいだと思うけど……ショウは持ってないのかい?」
「ぐっ……持ってないな」
逆に俺が無知を晒すことになってしまった。知らない事自体は恥ずかしいことじゃないけど
必需品とか言ってるしなあ。

「はは、ショウってたまに抜けてるとこあるよね。当たり前のこと知らなかったり、準備とかきっちりするのに
地図持ってなかったり」
「お前に言われたくはないわいっ!」
食料なしとかさすがの俺でもそれはないぞ!
地図なんかなくても国から出ないし、なくてもなんとかなるさ!多分。

「お二人は仲がよろしいんですのね」
とまあこんなやりとりをジャントしていたところ。
前を歩いていたラピピさんがニコッとしながら俺たちに話しかけてきた。

こうして見るとラピピさんは穏やかそうな人だなあという印象を受けるな。なんか毒吐いてた気もするけど……
「そうかな?仲がいいというよりは……そうだなー、ダメだとわかっててもお金を貸してしまう借主と貸主
の関係みたいな感じ?うまく例えられないな」

「いや、そこは仲良いでいいんじゃないかな?」
「ハハハ」
「もう!」
ジャンがぷすっとむくれる。つか俺より大きいイケメンがぷすっとしててもな……

「ふふ、十分仲いいではありませんか。お二人の付き合いは長いんですの?」
そう聞かれるとあまり長い付き合いでもないな。身も蓋もないこと
をいえばそもそもこの世界自体の付き合いが短いしな。しかもこいつはふらっとどこかへ行って
いつの間にか居るとかそんな感じのやつだったからなぁ。

「うーん……付き合い自体は長くないな、出会って半年にならないくらいだ」
「そうだね、たしか僕がショウと会ったのはね。確か何ヶ月か前えの話しさ、その時の話聞くかい?」

「ぜひ聞いてみたいですわ」
「私も聞きたいな」
「僕も興味ありますね」

おっと、ルース君にルティも食いついてきた。こいつとあったときはどうだったかなぁ……。
とまあ俺が考え込んでいるとジャンが説明をしだした。
「よろしい、では失礼して。……僕とショウが会ったのは確か数カ月前のコウモリのねぐら、あの君たちに
食事とお酒をおごってもらったところさ。その日僕はパルブロ鉱山というクゥダフたちのねぐらになっている
鉱山を散策した戦利品を持っていって、僕が座ったテーブルに広げた。
すると客は僕の持つ品物の珍しさにテーブルの周りに集まり始めちゃってね。參ったよ……
で、みんな離れてくれないから僕は言ったんだ。

『珍しいのは分かったから、なにか食べ物をくれないか?何でもいい』
ってね。そうしたところ、客の一人が『このめずらしいものを見せてくれたお客
さんに何か食べ物をやってくれ、もちろんお代は俺が出す。そのかわりそれについて色々聞かせてくれないか?』
といった客がいてね。それがショウだったというわけさ」

ジャンは語りきったというしたり顔を浮かべている。
「なかなかロマンのある出会いですわね」
「ジャンさんってちょっぴりダメな人かなと思ってたけど、そんなことないんだね」
「珍しい品物……興味ありますね」
皆がそれぞれに感想を述べている、おおむねジャンはトレジャーハンターとしてなかなかのものなんだろうな
とか思ってることだろう。しかし

……ん?なんかおかしいぞ。おかしいというか事実と違うというか。
ジャンがコウモリのねぐらに来たところまでは事実、しかしジャンが持ってきたのはよくわからない人形の手足
で、客は一瞬だけ集まったが、さっと同じように一瞬で去っていってしまった。どう見てもガラクタだったしな。

その時点で色々とおかしいけど、その後のジャンはというと、誰も居なくなったテーブルの上で突っ伏して
動かなくなっていた。俺はなんとなく気の毒に思って
『いやー、そのなんだ?人形も悪くないよ。ここのやつらはひと目で分かるすごいものを好むみたいだから』

と声をかけたところ、動かないから。
『おい、大丈夫か?』
と体を揺すってみたところ

『お腹すいた……何か食べ物……』
とか何とかもぞもぞ喋っていたので
『頼めないなら俺が代わりに頼んでやろうか?』
という小さな親切心をだしたのだけれど

『実はもう手持ちがないんだ……これあげるから食べ物もらえないかい?』
『いや、いらないけど……』
正直全くいらない。よくわからない人形の手足?だいたい手足だけって……

で、正直にそう返したところ、そいつは見るからに落ち込んで、全く動かなくなってしまった。
だから俺は仕方なく
「ああもう!しょうがないなその人形はいらないけど飯くらいなら食わせてやるよ!」
そういった瞬間、ジャンの顔はぱっと輝いて

「ほんとかい!」
もしかして演技だったのかと思えるほどの変わりぶりに戸惑う。
まあいいか。

「……言ってしまったものはしょうがないからな、いいよ大して高いメニューがあるわけじゃなし、好きなもの
頼んでくれ」
「わあ、ありがとう……!」
「うおっ……抱きつくなっ!男に抱きつかれてもうれしくないわっ!」
「そう?じゃあこの人形でも……」
「それはいらないです」

「ハハハ」
ハハハじゃないよまったく……

あいつの性質の片鱗はすでに会ったときから見えてたんだな……
とまあ思い出してみたところ、ジャンの話はもはやファンタジーだなこりゃ。
正直なところ訂正するのもめんどくさい……

俺はジャンを肘でつついて
「おい、なにへんな物語つくってんだよ」
するとジャンは小声で俺に耳打ちする。

「ふふ、軽い冗談だよ」
「まあいいけどさ、あんま期待値上げすぎんなよ?がっかりする姿が目に浮かぶからな……」
「大丈夫大丈夫、冒険者なんて今日つき会う人と明日付き合う人が違うものだしね。
ダメダメジャンさんのまま別れるよりいいかなーと思ってね」

一理あるといえばあるな、冒険者というものは一応評判とかを気にするものだからな。いい評判が立てば
仕事だって舞い込んで来ることがあるらしいし。別に俺は冒険者としての評判とかは気にしないしね。
「まったく、俺は別に構わないけど、せいぜいボロがでないよう気をつけろよ?……まったく、後で何かおご
ってくれよ」

「ふふ、まかせといてよ」
「期待せずに待ってるわ」
まあこいつのことだしな。

「まったく、そこは大いに期待して待つところだよ?」
「へいへい」
期待して待ってますともさ

「そこの二人ー遅れてるよーこのままじゃ明日になっちゃうよ」
おっと、気づいたら集団から少し遅れてしまったらしい。
俺たちは顔を見合わせ、かけていくのであった。

第9話

「むっ……このにおいは……」
談笑したり、黙々と歩きながら進み、日の傾き具合からみて、大体3時……昼を2~3時間ほど過ぎたころだろう
か。

俺の鼻に卵の腐ったようなにおいがするのに気付く……
要するに温泉とかでよくかぐようなにおいがしてくるのを感じた。
「ぼ、僕じゃないよ」
何かジャンはいっているが、このにおいは……なんだろう?温泉?
というかうたがってねーよ!

「このあたりはダングルフの枯れ谷の近くなのでにおいはそのためでしょう」
とまあくだらないやり取りをしている間にルース君が解説してくれた。
火山ということならこの硫黄のにおいは納得である。

「へぇ~、そうなんだ。となると温泉とかあるのかな」
このにおいで火山とくれば、温泉!と答えるのが日本人というもの。あるかどうかはちょっと気になってしまう
「温泉ですか?」

はて?という風にルース君は首をかしげる。
「うん、こういう火山に近いところではさ。地下水が温められて、地表に湧き出たりするんだ。でその温かい
お湯につかるのさ」
すごい気持ちいいぞと付け加えて説明する。

「なるほど、バストゥークにも工房の廃熱を利用した大浴場がありますが、そんな感じですかね?」
「そそ、そんな感じそんな感じ、だけど温泉はちょいと別格だな、特にこういう場所だと露天風呂になるから
景色も楽しめてすごいよさそうだ、人も入ってこなそうだしね、一人満喫ってな」
バストゥークには工房の廃熱を利用した大浴場があり、にぎわっている。俺とおやっさんも仕事を終えると
一日の汗を流しにそこへよることが多い。寄らない日は水を浴びて終了だけどね。

「ショウさん、そんな外にあるお風呂なんか入って誰かに見られたりしないの?」
ルティがおずおずと聞いてくる。
「うーむ、覗きくらいはいるかもしれないけど……周り見ても人っ子一人いないしな。大丈夫なんじゃないか
な」
「そ、そうなんだ」
人がいないから家に鍵をかけてなくても泥棒は入らない理論だなこりゃ。
大浴場もさすがに男女別れてるし。

ちょいとからかいたい気持ちが俺にむくむくと湧き上がってきた。
「うーん、でもこういう場所だとやっぱり混浴になるのかな、秘境の温泉ってか整備されてないところは」
「混浴?」
「みんな一緒に入るってこと、男の人も女の人もね」

「・・・!」
「!あらあら・・」
ルティとラピピさんは顔を赤くしてうつむいてしまった。
うっへっへ、なんか俺おっさんみたいなノリだな……

「まー、ルティは見ても……」
俺がちらりと見て、手を外人がよくやるようなお手上げのポーズをする。
「もう!」
ルティがぷんすかという感じにふくれっ面しながら俺に言う。

「ははは、まあちょっとした冗談、まあ混浴というのがあるというのは事実だけどさ」
「やっぱりだめじゃない!」
ジャンとルース君はくすくすと笑いながら見守っている。
ちょっとは打ち解けてきたかな、と思う今日この頃。

そしてそんなやりとりのあと、しばらく歩き続け、俺たちは北グスタベルグにたどり着いた。
とはいえ、これは便宜上北と南に分かれているだけで、俺たちの行程には代わり映えのない
土と岩の景色が続く。

歩き続けてどれくらい経っただろう。太陽はすでに傾き始め、夕方への準備を着々と進めている。
ここまでの道中俺たちは今までは敵らしい敵に遭遇してこなかったのだが
(子どもほどのサイズのハチや、腰ほどの大きさのミミズ
わしよりも一回りも二回りも大きな鳥、トカゲというには小さな恐竜といったほどのサイズのトカゲなどと
遭遇したが、彼らは自分から襲ってくるということはないため、特に問題はない)

だが今俺たちの目の前には、明確な敵意を持って襲ってくる恐れのある敵……獣人がいる。
現在の状況としては、先頭を行くルース君の制止のおかげで、あちらはこちらに気づいていないという
有利な状況である。

敵は甲羅に包まれた亀がよろいを背負って武器を持って歩いているような容姿の獣人、クゥダフである。
彼らは焚き火を囲んで3体いるようだ。
亀なのに焚き火にあたるとかなにそれ!とかいいたいけど、状況はそんな冗談を許すわけもない。

「ここからは小声で話すことにしましょう、彼らは目が悪い代わりに、耳がいいんです。ですからあまり大きな
音を立てないよう気をつけてください」
なるほど、音を立てないようにか……気をつけないとな

「さて、僕らは戦うか、迂回して少し遠回りをするかという選択肢があるわけですが」
ふむふむ
「戦う場合ですが、彼らは見るからして若いクゥダフで強さはそれほどでもないと思います。とはいえ彼らは
知能のある獣人なので油断は絶対に禁物です」

まあ犬だって人間並みの知能を持って襲って来たら勝てるかわからないしな。武器を持ってるならなおさらだ。
「そして迂回する場合ですが、少し遠回りすることになります。またしばらくは後方に注意しながら進ま
なければなりません」

この選択肢だったらどう動くか……皆の意見はまだ聞いていないが
俺は腰に下げているブロンズソードをちらっとみてささっていることを確認し、戦闘を補助する楽器
もいつでも行動に移せるように準備をする。
緊張感が俺たちを包み、奇妙な静寂が俺たちの間に広がる。

そして周りの皆も俺の行動より早く、持ち物を確認し。いつでも行動できるようにしている。
クゥダフたちに気づく様子はない。このままなら奇襲できそうだ。
そして俺たちは無言で互いにうなづきあい、行動に移った。

「まあ普通逃げるわな」
「何ひとりごと言ってるのさ?」
「いや、なんでもない」
結局俺たちご一行は、クゥダフがいるポイントを避けて、遠回りをしているところである。
あの場は満場一致で「戦闘を避ける」と決まった。

俺はわざわざ危ないことはしたくないし、ルース君たちも自分から仕掛けたりする必要はないという意見
シーフであるジャンは、持ち物をくすねるくらいならいいんじゃないかな……?とかいってたけど無視無視!
戦わないに越したことはないしな!

皆装備を確認してたのは、もうここに戻ることはできないから、持ち物を確認したというわけ。
今俺たちはクゥダフたちがたむろをしていた場所からしばらく離れて
そろそろ危険はなくなってきただろうとルース君が判断したあたりである。

岩と土の代わり映えのない景色はまだまだ続いている、日は落ちかけており、もうじき夜になろうかというころ
である。夕日は荒野を照らし、なんともハードボイルドな感じだなあと一人思ったりする。
荒れた土地であるため、国周辺から離れたこのあたりでは畑もなく、それに付随した家もない。

バストゥークから離れて、さらにこの痩せた土地を耕そうという猛者はいないのだろう。
ところどころ生命力の強い木が生えている程度のものだ。

おやっさんも畑持ってるって行ってたけど、比較的国から近くにあるっていってたしな。

「ショウ何難しい顔してるのさ」
「いや、なんでもないよ」
ちょっと考え込むとすぐ顔に出る癖は早く直さないと駄目だな。

本格的に暗くなり始め、頼りになるのは月明かりとラピピさんがたまに使うファイアの魔法の明かりだけ
ちなみにこの世界の月は曜日によって色が違う。
はじめてみたときは驚いたが、今はもう慣れてしまった。

今日の月は赤色で今日は火曜日であるということがわかる。
赤って言うのはどうも禍々しい感じを受けるけど、同時に神秘的な感じもする。
日本に居たころは、月を眺めるなんてことはまったくしなかったけど、この世界に来てからは眺める時間が
増えたなあ。

そんなことを考えながら歩いているうちに、遠めにうっすらと明かりが見えることに気づいた。
当然俺が気づいているくらいだから他の人も気づいているというわけで

「アウトポストが見えてきましたわね」
「うんうん、やっと休めるね」
とルティとラピピさんが言葉を交わしている。

「皆さん。今回はそこのアウトポストで夜営することにしますね」
ルース君の一言で俺らの方向性は決まった。
アウトポストというのは、要するに各国の兵士の詰め所である。

あるのは小さな衛兵用の建物だけであり、また兵士でない俺らは中に入ってとめてもらうことはできないが
他の何もない場所でとまるよりはよほど安全であることは確かだ。

詰め所の見張りの衛兵にあいさつをして、とりあえず周りを使うことを伝えておく。
冒険者がここ周辺を利用することはよくあることみたいで、特に問題もなかった。
まあそういうわけで俺たちは建物の裏手のある場所当たりにキャンプを設営することとなったわけである。

雨もほとんど降らないこのグスタベルグでは、この季節なら特にテントを張る必要もなく、毛布一枚と
地面から熱を奪われるのを防ぐためのものを一枚下に敷いておくだけで寝れそうだ。
そして俺たちはいろいろな準備を終えてさあ夕飯という流れになった。

疲れがたまり、腹も減った……とはいえたいした物はないんだけどね。
今から火をおこすのもきつい…グスタベルグには木が少なく、枯れ木を集めるのもひと手間かかるからな。
味気のない夕食になりそうだ。とまあこんなことを考えていたそのとき

「ふふふ、こうなるだろうと思って用意してたよ」
とジャンがなにやら言ったかと思うと、ごそごそと出発前には何も入っていなかった袋から
何かを地面にばら撒いた。これは……枯れ木だな。
「やっぱり火があるとないとじゃ全然違うからね。歩きながら集めておいたのさ」

アウトポスト周辺なら気にすることもないしね、と笑いながらつぶやく。
「おぉ、ジャンもたまには役に立つことをするんだな」
「たまにはって何さ、たまにはって」
「まあ気にするな、素直に感心してるんだ」
「むう……」

しかし、これがトレジャーハンターの能力です!なんてことないだろうな……?

「ともかくジャンさんのおかげで火をおこすこともできるようになったみたいですし、どなたか火のクリスタル
持ってます?丁度切らしてまして……」
とルース君が皆に尋ねた。

火のクリスタル?それなら確かいくつか持ってたはず……
ごそごそと小物入れを探り、その中にはさまざまな種類のクリスタルが分けて入れてある。
その中からいくつか取り出し、ルース君に聞く。

「持ってるけど、何かに使うのか?」
「ええ、たき火の中にいくつか置くと火がだいぶ長いこと持つんです」
へえ、それは知らなかった。クリスタルには未知のエネルギーでも詰まっているんだろうか。
これ日本に持って帰ったら大発見になりそうだな、未知のエネルギー発見!ってな具合に
……その前に、帰れんのかね、ホント。

「へえ、いくつ必要なんだ?」
「そうですね、3つ4つあれば足りるはずです」
「ふむふむ……はい、これで4つあるかな」
とりあえず4つほどルース君に渡す。炎のクリスタルはほのかに温かい。

ルース君はそれを木が並んでいる中央に配置する。
「ラピピ、頼む」
するとラピピさんはこくりとうなずくと
「炎の精霊よ……ファイア!」
ラピピさんは簡単な詠唱をして、枯れ木に向かってファイアの魔法を放つ。

魔法というのは詠唱が必要でこういう弱い炎の場合あまり長い詠唱を必要としないらしい。
仕組みは分からないが、道中何回か見てきたし、あまり感動とかはしない。
何はともあれついに火がついた。これで暖かい夜をすごすことができそうだ。
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