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第9話

「むっ……このにおいは……」
談笑したり、黙々と歩きながら進み、日の傾き具合からみて、大体3時……昼を2~3時間ほど過ぎたころだろう
か。

俺の鼻に卵の腐ったようなにおいがするのに気付く……
要するに温泉とかでよくかぐようなにおいがしてくるのを感じた。
「ぼ、僕じゃないよ」
何かジャンはいっているが、このにおいは……なんだろう?温泉?
というかうたがってねーよ!

「このあたりはダングルフの枯れ谷の近くなのでにおいはそのためでしょう」
とまあくだらないやり取りをしている間にルース君が解説してくれた。
火山ということならこの硫黄のにおいは納得である。

「へぇ~、そうなんだ。となると温泉とかあるのかな」
このにおいで火山とくれば、温泉!と答えるのが日本人というもの。あるかどうかはちょっと気になってしまう
「温泉ですか?」

はて?という風にルース君は首をかしげる。
「うん、こういう火山に近いところではさ。地下水が温められて、地表に湧き出たりするんだ。でその温かい
お湯につかるのさ」
すごい気持ちいいぞと付け加えて説明する。

「なるほど、バストゥークにも工房の廃熱を利用した大浴場がありますが、そんな感じですかね?」
「そそ、そんな感じそんな感じ、だけど温泉はちょいと別格だな、特にこういう場所だと露天風呂になるから
景色も楽しめてすごいよさそうだ、人も入ってこなそうだしね、一人満喫ってな」
バストゥークには工房の廃熱を利用した大浴場があり、にぎわっている。俺とおやっさんも仕事を終えると
一日の汗を流しにそこへよることが多い。寄らない日は水を浴びて終了だけどね。

「ショウさん、そんな外にあるお風呂なんか入って誰かに見られたりしないの?」
ルティがおずおずと聞いてくる。
「うーむ、覗きくらいはいるかもしれないけど……周り見ても人っ子一人いないしな。大丈夫なんじゃないか
な」
「そ、そうなんだ」
人がいないから家に鍵をかけてなくても泥棒は入らない理論だなこりゃ。
大浴場もさすがに男女別れてるし。

ちょいとからかいたい気持ちが俺にむくむくと湧き上がってきた。
「うーん、でもこういう場所だとやっぱり混浴になるのかな、秘境の温泉ってか整備されてないところは」
「混浴?」
「みんな一緒に入るってこと、男の人も女の人もね」

「・・・!」
「!あらあら・・」
ルティとラピピさんは顔を赤くしてうつむいてしまった。
うっへっへ、なんか俺おっさんみたいなノリだな……

「まー、ルティは見ても……」
俺がちらりと見て、手を外人がよくやるようなお手上げのポーズをする。
「もう!」
ルティがぷんすかという感じにふくれっ面しながら俺に言う。

「ははは、まあちょっとした冗談、まあ混浴というのがあるというのは事実だけどさ」
「やっぱりだめじゃない!」
ジャンとルース君はくすくすと笑いながら見守っている。
ちょっとは打ち解けてきたかな、と思う今日この頃。

そしてそんなやりとりのあと、しばらく歩き続け、俺たちは北グスタベルグにたどり着いた。
とはいえ、これは便宜上北と南に分かれているだけで、俺たちの行程には代わり映えのない
土と岩の景色が続く。

歩き続けてどれくらい経っただろう。太陽はすでに傾き始め、夕方への準備を着々と進めている。
ここまでの道中俺たちは今までは敵らしい敵に遭遇してこなかったのだが
(子どもほどのサイズのハチや、腰ほどの大きさのミミズ
わしよりも一回りも二回りも大きな鳥、トカゲというには小さな恐竜といったほどのサイズのトカゲなどと
遭遇したが、彼らは自分から襲ってくるということはないため、特に問題はない)

だが今俺たちの目の前には、明確な敵意を持って襲ってくる恐れのある敵……獣人がいる。
現在の状況としては、先頭を行くルース君の制止のおかげで、あちらはこちらに気づいていないという
有利な状況である。

敵は甲羅に包まれた亀がよろいを背負って武器を持って歩いているような容姿の獣人、クゥダフである。
彼らは焚き火を囲んで3体いるようだ。
亀なのに焚き火にあたるとかなにそれ!とかいいたいけど、状況はそんな冗談を許すわけもない。

「ここからは小声で話すことにしましょう、彼らは目が悪い代わりに、耳がいいんです。ですからあまり大きな
音を立てないよう気をつけてください」
なるほど、音を立てないようにか……気をつけないとな

「さて、僕らは戦うか、迂回して少し遠回りをするかという選択肢があるわけですが」
ふむふむ
「戦う場合ですが、彼らは見るからして若いクゥダフで強さはそれほどでもないと思います。とはいえ彼らは
知能のある獣人なので油断は絶対に禁物です」

まあ犬だって人間並みの知能を持って襲って来たら勝てるかわからないしな。武器を持ってるならなおさらだ。
「そして迂回する場合ですが、少し遠回りすることになります。またしばらくは後方に注意しながら進ま
なければなりません」

この選択肢だったらどう動くか……皆の意見はまだ聞いていないが
俺は腰に下げているブロンズソードをちらっとみてささっていることを確認し、戦闘を補助する楽器
もいつでも行動に移せるように準備をする。
緊張感が俺たちを包み、奇妙な静寂が俺たちの間に広がる。

そして周りの皆も俺の行動より早く、持ち物を確認し。いつでも行動できるようにしている。
クゥダフたちに気づく様子はない。このままなら奇襲できそうだ。
そして俺たちは無言で互いにうなづきあい、行動に移った。

「まあ普通逃げるわな」
「何ひとりごと言ってるのさ?」
「いや、なんでもない」
結局俺たちご一行は、クゥダフがいるポイントを避けて、遠回りをしているところである。
あの場は満場一致で「戦闘を避ける」と決まった。

俺はわざわざ危ないことはしたくないし、ルース君たちも自分から仕掛けたりする必要はないという意見
シーフであるジャンは、持ち物をくすねるくらいならいいんじゃないかな……?とかいってたけど無視無視!
戦わないに越したことはないしな!

皆装備を確認してたのは、もうここに戻ることはできないから、持ち物を確認したというわけ。
今俺たちはクゥダフたちがたむろをしていた場所からしばらく離れて
そろそろ危険はなくなってきただろうとルース君が判断したあたりである。

岩と土の代わり映えのない景色はまだまだ続いている、日は落ちかけており、もうじき夜になろうかというころ
である。夕日は荒野を照らし、なんともハードボイルドな感じだなあと一人思ったりする。
荒れた土地であるため、国周辺から離れたこのあたりでは畑もなく、それに付随した家もない。

バストゥークから離れて、さらにこの痩せた土地を耕そうという猛者はいないのだろう。
ところどころ生命力の強い木が生えている程度のものだ。

おやっさんも畑持ってるって行ってたけど、比較的国から近くにあるっていってたしな。

「ショウ何難しい顔してるのさ」
「いや、なんでもないよ」
ちょっと考え込むとすぐ顔に出る癖は早く直さないと駄目だな。

本格的に暗くなり始め、頼りになるのは月明かりとラピピさんがたまに使うファイアの魔法の明かりだけ
ちなみにこの世界の月は曜日によって色が違う。
はじめてみたときは驚いたが、今はもう慣れてしまった。

今日の月は赤色で今日は火曜日であるということがわかる。
赤って言うのはどうも禍々しい感じを受けるけど、同時に神秘的な感じもする。
日本に居たころは、月を眺めるなんてことはまったくしなかったけど、この世界に来てからは眺める時間が
増えたなあ。

そんなことを考えながら歩いているうちに、遠めにうっすらと明かりが見えることに気づいた。
当然俺が気づいているくらいだから他の人も気づいているというわけで

「アウトポストが見えてきましたわね」
「うんうん、やっと休めるね」
とルティとラピピさんが言葉を交わしている。

「皆さん。今回はそこのアウトポストで夜営することにしますね」
ルース君の一言で俺らの方向性は決まった。
アウトポストというのは、要するに各国の兵士の詰め所である。

あるのは小さな衛兵用の建物だけであり、また兵士でない俺らは中に入ってとめてもらうことはできないが
他の何もない場所でとまるよりはよほど安全であることは確かだ。

詰め所の見張りの衛兵にあいさつをして、とりあえず周りを使うことを伝えておく。
冒険者がここ周辺を利用することはよくあることみたいで、特に問題もなかった。
まあそういうわけで俺たちは建物の裏手のある場所当たりにキャンプを設営することとなったわけである。

雨もほとんど降らないこのグスタベルグでは、この季節なら特にテントを張る必要もなく、毛布一枚と
地面から熱を奪われるのを防ぐためのものを一枚下に敷いておくだけで寝れそうだ。
そして俺たちはいろいろな準備を終えてさあ夕飯という流れになった。

疲れがたまり、腹も減った……とはいえたいした物はないんだけどね。
今から火をおこすのもきつい…グスタベルグには木が少なく、枯れ木を集めるのもひと手間かかるからな。
味気のない夕食になりそうだ。とまあこんなことを考えていたそのとき

「ふふふ、こうなるだろうと思って用意してたよ」
とジャンがなにやら言ったかと思うと、ごそごそと出発前には何も入っていなかった袋から
何かを地面にばら撒いた。これは……枯れ木だな。
「やっぱり火があるとないとじゃ全然違うからね。歩きながら集めておいたのさ」

アウトポスト周辺なら気にすることもないしね、と笑いながらつぶやく。
「おぉ、ジャンもたまには役に立つことをするんだな」
「たまにはって何さ、たまにはって」
「まあ気にするな、素直に感心してるんだ」
「むう……」

しかし、これがトレジャーハンターの能力です!なんてことないだろうな……?

「ともかくジャンさんのおかげで火をおこすこともできるようになったみたいですし、どなたか火のクリスタル
持ってます?丁度切らしてまして……」
とルース君が皆に尋ねた。

火のクリスタル?それなら確かいくつか持ってたはず……
ごそごそと小物入れを探り、その中にはさまざまな種類のクリスタルが分けて入れてある。
その中からいくつか取り出し、ルース君に聞く。

「持ってるけど、何かに使うのか?」
「ええ、たき火の中にいくつか置くと火がだいぶ長いこと持つんです」
へえ、それは知らなかった。クリスタルには未知のエネルギーでも詰まっているんだろうか。
これ日本に持って帰ったら大発見になりそうだな、未知のエネルギー発見!ってな具合に
……その前に、帰れんのかね、ホント。

「へえ、いくつ必要なんだ?」
「そうですね、3つ4つあれば足りるはずです」
「ふむふむ……はい、これで4つあるかな」
とりあえず4つほどルース君に渡す。炎のクリスタルはほのかに温かい。

ルース君はそれを木が並んでいる中央に配置する。
「ラピピ、頼む」
するとラピピさんはこくりとうなずくと
「炎の精霊よ……ファイア!」
ラピピさんは簡単な詠唱をして、枯れ木に向かってファイアの魔法を放つ。

魔法というのは詠唱が必要でこういう弱い炎の場合あまり長い詠唱を必要としないらしい。
仕組みは分からないが、道中何回か見てきたし、あまり感動とかはしない。
何はともあれついに火がついた。これで暖かい夜をすごすことができそうだ。
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